Coworking Europe 2025 1日目

今年の正式名はCoworking & Flex Workspaces Conference 2025 Berlin, November 19-20となっている。

Word of Welcome

オープニングの進行はPauline。ここでLizからC20の発表があった。

C20 is a collaboration between GCUC and Coworking Europe, the two largest coworking conference organizers in the world with a combined 27 years of experience.


いつか、こういうことは起きるだろうと思っていたが、2つの会議はかなり色合いが異なるので、ちょっと無理矢理感はある。とはいえ、賽は投げられたということであろう。

今年は500人以上が参加し、かなり盛況だったが、転機を迎えていることも明らかになった回でもあった。会議名がCoworking & Flexとなっているように、Jean-YvesもLizも、その2つは違うものだと考えている。しかし、ビジネスの視点で見れば、Flex Workspacesは圧倒的に経済規模が大きく、従来からあるCoworking Spaceは劣勢を強いられている。もちろん、持続的に運営できていてメンバーからの高い支持を得ているスペースは欧州でも米国でも日本でも少なくないが、複数拠点を有するスペースは徐々に規模の大きな企業を受け入れる形に変質してきており、コミュニティで維持する空間というよりは、オペレータからサービスを受けるのが常識という形になってきた。

Radioscopy of the coworking operators key paramaters in Europe, in 2025

従来のCoworking Surveyは、コワーカーへの聞き取りだったが、COWORKING TRENDS SURVEYに変わっていて、運営者への聞き取りになっている。ビジネス状況としては、Badが12%から7%に低下したが、Goodも63%から54%に低下している。その分まあまあというところが増えているということだ。平均稼働率は69%で特に変動はない。エネルギー価格の高騰や欧州、特にドイツの不景気は影を落としているが、これはというような驚かされるニュースはなかった。今年は、AIへの取り組みがサーベイに含まれており、ざっくり1割程度のスペースが実用していると読めるような状況だった。

このセッションではないが、NYのコワーキングスペースBond CollectiveがUniti AIの助けを借りて成約率が2割から35%に上がったという発表もあった。デモセッションで音声での対話事例の録音を聞いたが、とてもAIとは思えない品質で、びっくりさせられた。いぜん訪れたことがあるBond Collectiveはシェアオフィスに重きをおいている感じで、資本力があるように見える。AIに対する積極投資は、カネがないと進まないだろうから、今後さらに格差が開くように感じた。ちょっとAIを使ってみるというのとガッツリ投資して成果を出そうとするアプローチは大きな違いを生む。サーベイで1割程度のスペースしか本格的な取り組みができていないことを考えると相当事態は深刻な局面を迎えていると捉えることもできるだろう。

Flexible Workspace and Coworking - What are the main trends and challenges?

不動産業のCushman & Wakefieldによるキーノート。Flex系を含めて、Experienceに重きを置く方向に大きく動いているというのが主張の基本で、デスクや良質な椅子の準備は当たり前になっているが、それを超えて行くと楽しいような空間をどう探索していくかというキュレーター側面が重要になってきている。Lizが繰り返し主張していたコワーキングスペースはホスピタリティビジネスだという考え方の具現化が進んでいる。UKのX-Whyが注目されていた。

Redefining Coworking

WeWorkの立ち上げなどでも大きな貢献をした所謂ビッグネームのDean Connell氏は、当初の表題の"What new philosophy of design to bring in the new generation of coworking spaces?"を書き換えてキーノート登壇。聴衆の注目度は極めて高かった。私はよく知っていなかったが、LinkedInのページを見るとそのすごさがわかる。Coworkingを3段階で再整理した。

1.0はコワーキングスペース以前の概念で、上意下達型の組織からプロジェクトベースに働き方が変わったこととした。

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2.0は企業向けServiced Officeを意図していて、フリーランサーは一人会社と考えれば良く、そうすると広い意味でコワーキングスペースを意味するモデルと言える。

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3.0は未来で、Hookという言葉を用いた。考え方によれば、Projectの洗替やJoint Ventureのための器のような機能を持つことを意味するのだろう。

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大きな動きを生み出す人には言語化能力が高いという特徴がある。この整理の仕方には、賛否はあるだろうが、興味深い発表ではあった。

How to make coworking/flex office the obvious option for anyone in the hybrid working era ?

パネル。どう認知度を上げていくかというディスカッションでIWGやWeWorkなどのパネリストが議論。やりとりが興味深かったが、特記事項はなし。

What occupiers really want ? - High level discussion with brokers

パネル。JLLやCBRE等豪華不動産業者がパネリストとして議論。まずは、Flexが意味するリースと比べて短期契約が魅力だった時期は過ぎたということがコンセンサスになっていることを確認。150席程度の契約でもFlexが選ばれるようになっているのは期間ではなくサービスが魅力的になっているせいという点でも意見が一致しているように思われた。運営業者が不動産物件を保有するケースも増えているとのこと。ただ、まだまだ変化が激しく、上記のようなトレンドはともかく将来が見通せている感じはなかった。

蛇足となる個人的な感想であるが、かつてのデータセンターのコロケーション化とマネージドサービスの関係を想起させるものがあった(コロケーションからSaaS化の流れ)。何となくExodusの倒産とWeWorkの破綻に共通点を感じる。米英的な強い資本主義はそういったプレーヤーの交代を受容しつつ産業化が進む。不動産業視点から、サービスプロバイダー、プリデファインドサービスに変わっていくのだろうと思わされた。そこまで進化すると、大手企業だけではなく、個人やフリーランサーレベルでも高い付加価値のあるサービスを比較的安価に享受できるようになる。10年しない内にFlex/Coworkingの世界もある種の安定期に入るのではないかと想像する。ただ、大手SaaSの寡占状態のような未来がこの分野で起きるのは私にはディストピアではないかと思われてならない。まあ、時代の流れなのだろう。

Partner session - Tomorrow’s Offices - A glimpse into the future workspaces

サーベイの箇所で触れたBond CollectiveがUniti AIの助けを借りて成約率が2割から35%に上がったという話はこのセッションで、デモ踏まえた発表。ちょっと機器のトラブルがあって登壇者に不利があったが、十分に面白かった。事例については、LinkedInで広告に使われている。

Coworking’s External Challenges: Economic Slowdown, Subleases, AI, Remote Work, Return-to-Office — How to Navigate the Storm?

Jean-Yvesがモデレータのパネル。最初にDesign OfficeのCEOのJoachim氏がUnchaining the German Flex Marketという発表を実施。その発表で、ドイツが経済減速に直面していること、Flex市場も影響を受けていることに触れた。23年以降オフィス市場全体が35%劣化し、2021年にCOVID後の回復は失敗、2020年レベルを取り戻せていない。例えば、ミュンヘンは建物としての優良物件はたくさんあるが需要がない。オフィスの借り手自身がどうして良いか決められていない。出社日数は4を割っていて、コロナ前の出社率を下回っている。サブリース契約は2.5%から8%弱に3.5倍になっている。家賃はCPIと連動して伸びているのでFlex事業者の利益が圧迫されている。Flexの面積増加はサチっていて大手の値下げ競争でユーザーの奪い合いが起きているがマーケットは伸びていない。彼は値引き競争に未来がないことを強く主張していた。

パネルの中では、ポーランドでは状況が違う話も出たが、それでも伸び率は落ちてきているとのこと。ベルギーも停滞。

Integrating AI in all processes - What works best, how not to fall into the AI illusion ?

Lizがモデレータのパネル。登壇者たちはほぼ誰もが一番頼りにしているのはChat-gptだと発言していたが、多くが1日一時間以上Chat-gpt等のLMMと単純な業務解決だけでなく可能性検証を含めて使っているようだった。パネリストは技術者ではないので、どう使えるのかに関心が集中していて、その視点が面白かったが、特にこれはというような話を聞くことはできなかった。

Fully Managed Office Solutions – The Next Step in Corporate Real Estate? (The Vision of CBRE, Industrious, and WeWork)

不動産業視点のパネル。興味深かったのは、Flex office、Office with managed service、リースの3分類でコワーキングスペースが語られていたことである。不動産業のCBREの視点では、必ずFlex化は進むという理解なのだが、コワーキングオフィス運営事業者のWeWorkやIndustoriousの認識はもっと厳しいものだった。彼らは、スタートアップから大企業までを対象としたいと努力しており、(WeWorkは一旦破綻したものの)確実に進化を遂げている。そのサービス品質を確保するためには、大企業ユーザーが満足できるサービスを提供しなければならず、そのコアサービスの部分を主にスタートアップの中小企業に提供したいと考えている。その心は、その中からきっと大化けする企業が現れると思っているからだ。

しかし、大企業側の理解はまだまだ進んでいなくて、例えば、要望に伴うレイアウト変更はただだと考えていたりする。事業者を下請け会社のように考えていて、プロフェッショナル性を認められないケースがまだまだ多いようだ。現実には、自社の総務部より、マネージド・サービス事業者のパフォーマンスは高い。商売としてやっているので、今までの阿吽の呼吸は最初は通じなくて最初は苦労するが、ある程度時間が経過すれば確実にコストパフォマンスは逆転するし、(きちんと対価を払えば)スピードも早い。しかし、その事実を理解することは容易ではないのである。

運営事業者も商用不動産ブローカーも施設の質よりサービスの質に関心が移っていることがよく分かるパネルであった。

以上で、初日のセッションは終わり。夜は、Mindspaceの見学を兼ねたレセプションと伝統的なコワーキングスペース(カフェ)でのパーティで盛り上がった。

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