新興国は世界を変えるか

新興国は世界を変えるか』読了。

もともとは、日経新聞の『グローバルサウスの論理を知る5冊 曖昧戦略で利益最大化』記事を読んで、図書館で借り出したものだ。エストニアに毎年通うようになり、あらためて独立とは何か、独立の維持をどう考えればよいかが興味の対象として大きくなってきたところに響く記事だったのだ。

「はじめに」の最後の部分に「第二次世界大戦後の日本は、「自由主義的国際主義」秩序の申し子のような存在であった。その秩序が揺らいでいる今日、日本は世界の中でどう振舞うべきか、等に世界での重要性を増している新興国の動きに、どう対処すべきか、それが終章のテーマである。」と書かれている。この「自由主義的国際主義」と「国家主義的自国主義」との対応、新興国の合理的選択の現実あるいは時間軸に即した理解が底流にある。

終章には「「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」することができなくなっている」と書かれている。エストニアのシニマエ古戦跡の展示を見たりするにつけ、現実問題としてエストニアの人々はとてもロシアの公正と信義に期待などできないのがわかるし、相対的にナチの方に高い評価が与えられているのを見て納得せざるを得ないのである。Brexitやトランプを選ぶアメリカを見れば、米英を信頼することもできない。コワーキングムーヴメントの主要プレーヤーであった英国の人がBrexitを支持している理由が自決権に基づく想定可能性の高さにおいているのは現実的だが衝撃的であったことも思い起こされる。

本書は、科研費の「新興国の政治と経済発展の相互作用パターンの解明」の経験に基づいて書かれているので、著者の解釈によるゆらぎがあるとしても相当多くの人のレビューを経た研究成果に基づいているのが感じられる。市井の研究者ではこれだけの情報を収集するのは困難と思われ、どの章の記述も充実している。

「国家主義的自国主義」は短期で見れば極めて合理的な選択になる。選挙に勝つか負けるかが極めて重要なトランプや安倍のような政治家にとって、「国家主義的自国主義」による煽りは効果的だが、当事者はそれが持続可能でないことに薄々気がついている。4章に出てくるエルドアンもそうだろう。しかし、彼らにとって他の選択肢はない。3章「民主化のゆくえ」で触れられているように定期的な選挙が不可欠なだけでなく、惜しくても長期化による弊害を抑制できなければやがて破綻に至る。そして、強いリーダーが短期的に独裁することで景色が変わるのも現実だから、特に追う立場にある新興国であれば「国家主義的自国主義」立場に立つ強いリーダーを選出するのは合理的選択になる。繰り返すが、その国富に貢献したリーダーに依存せずきちんと交代させなければ国の維持は難しくなる。

攻撃的(侵略を可能とする)武力に頼ることのない安全保障を実践できるか否かが日本の将来、国家としての独立を維持し、持続的な成長と国際リーダーシップを発揮できるかに直結するだろう。最後の「何が必要か」(P228)のまとめはわかりやすいし共感できるが、どのような新しい国内的合意を形成できるかが本質的な問題だ。とりあえずは、非脱亜入欧が近道でもあり持続的な道だと思う。そのためには愛国者の扇動を増幅させるような意識の低い情報発信者が改心できるような制度設計を望みたい。

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