2024 Coworking Europe Conference - Sofia, Bulgaria

今年のCoworking Europeはブルガリアのソフィアで、初めて訪れた場所。規模は300人強で昨年のポルトより特にヨーロッパ外からの参加者が若干少ない気がした。日本からは3名。昨年よりは少ないが、長年私一人の年が多かったので救われる気分になる。国際会議への出席に「外遊」という言葉が使われることが少なくないが、別に遊びに行っているわけではない(行けば遊びもいれるが、それも無駄ではない)。知らない地に行って、他の出席者も知らない地から来ていて、何度も同じ会議に参加していれば、知り合いもできる。来なくなった人の消息を聞くこともあるし、どの回でも新たな知見があり、経年変化、トレンドの動きを知ることができる。ユビキタスライフスタイル、ロケーション独立の働き方や生き方が誰からも遠くない未来に向けての活動である。だから、私はCoworking Europe Conferenceの活動を少額ながら応援し続けていている。

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サポーターという制度は少額故にもうだいぶん前に無くなっているのだが、その前からサポーターだったので、更新が許されている。あと、かつてあって今なくなっているのがアンカンファレンスだ。ネタ尽きという側面もあってか、GCUCでも今はアンカンファレンスは無くなっている。最近はパネルセッションに集約されるようになり、やや予定調和的な感じになったのは個人的には残念に思っている。例えば、今年日本からパネル参加した青木さんが提唱したようなコミュニティの計測に係る議論は、アンカンファレンス時代には多く見られたテーマで結局収束することはなかったものだ。もちろん、収束することが必要なわけではないし、パネルでの議論も面白かったし、少なくない参加者に受けていたので意義深い発表だったと思う。特に大事なのは、青木雄太という人物がCWE界隈で有名になったことだ。有名人が生まれることで、様々な活動の広がりが起きる。来年にはコザで国際カンファレンス(FLC)も計画されていて楽しみだ。

他方、米欧ではコワーキングに関わるIT製品、ITサービスが適度に寡占化してきていて、彼らが提供する指標がベンチマーク指標となっている。リテイン率や接触密度の計測もシステム化されている。それをどう使うかはスペース側の自由で、コミュニティコワーキングでさえ、市場動向に左右される時代である。ここ数年、特にポストコロナの劇的な環境変化でServiced Office市場あるいはFlex Office市場には大変な追い風が吹いている。黒字スペースの比率がどんどん高まっているが、黒転したスペースだけでなく、赤字スペースが退場した結果とも言えるだろう。WeWorkも再起に向けて粛々と活動していて、大きな失敗事例だけに、そして大きな金を動かした事例だけに、Liz Elamを含めて注目している関係者は少なくない。

今年の冒頭の基調講演は以下の3つ。今年は、開催地の自治体や政治家からの発表はなかった。Coworking Tourで見る限り、ビジネスは順調に拡大しているようだが、国策や行政的な施策としては取り上げられていない。

  • Coworking Industry in Europe - Latests facts & figures on coworking profitability, occupancy and revenues, for big or small spaces
    Keynote – Carsten Förtsch, Deskmag
    おなじみのDeskmag 2024 Coworking Survey
     

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    従来はCoworker中心だったが、オペレータよりだった印象
    資料はやがてサイトに掲載されると思われるので委細には触れないが、収益構造の改善などかなり明るい報告となっていた。報告者が一番衝撃を受けたのは、27%がレントでなく買い取りの物件で開業しているという言及であった。

  • What is the coworking's tenants breakdown in 2024 and what changed over the last months in Europe.
    Keynote – Emma Swinnerton, Head of Flex at Cushman & Wakefield
    最近はInstant Groupの市場認識の発表が定番でFlex Officeマーケットからの分析はDeskmagとは違う視点で有効だった。今年は、視点は比較的似ているが、不動産事業者の雄Cushman & Wakefieldから発表
     

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    ドイツの競争状況のスライドが印象的で、もう一つのキーノートスピーカーのDesign Officesの躍進ぶりが目立つ。それ以外に、ヨーロッパ全体の相関分析で経済が強い街はFlexが強いと指摘していた点が印象に残った。こちらは、資料が公開されるかどうかわからないが、公開されればぜひ参照したい内容だった。

  • Quo vadis Flex office? What worked, what didn't and what's next for Design Offices
    Keynote – Joachim Gripp, CEO Design Offices
    2008年創業のドイツのプレーヤーで新参者とは言えないが、ハイエンドマーケットの激変を想起させる発表。クォ・ヴァディスをFlex officeの冠に充てるのは衝撃的で、発表も刺激的だった。
    スライドで私にとって特に印象的なものはなかったが、収益上はCoworkingは0.1%の貢献でしか無いと断言していたのは強く印象に残った。Office SpacesとMeeting Spaces、Conference Spacesが利益の源泉になって、急成長している。資本の大きさがキーとなる分野で、時代の変遷を強く印象付けるものだった。

以下は、出席セッションの記録

  • How to unlock the growth potential of coworking and flex workspace demand in Europe ?
    Panel – Mindspace, IWG, Networkia, Design Offices モデレータJean-yves
    事業者間のディスカッション。勢いのあるDesign Officesが光る中、やや勢いが鈍った感のあるMindspace、再起を目指すIWG(Regus)がそれぞれに狙いを訴求していた。それぞれに狙っているマーケットが異なっていて、それぞれに説得力を感じた。何か、ファミレスブランド間の競争を想起させるものがあり、素晴らしい単立店の話は置いてけぼりになっている印象があった。
  • Picking the best location to open a new Flexible workspace - Data analysis to optimize your next opening decision
    Keynote + Q&A – CBRE
    CBREはオフィス不動産大手で、市場の構造として大家とオペレータ、ユーザーの3者が合意に至らないとFlex契約が成り立たないことに注目して分析している。リース契約はリスクが少ないので、超都市部では大家はFlexに後ろ向きだが、物件も多いので一定の供給はある。少しずれたところは成立しやすいようで、はずれるとオペレータが見つからなくなる。経済合理性が支配的なのが分かる統計分析だった。
  • Community - How to build engaging enjoyable social environments with the right tools and rituals?
    Panel
    コミュニティ構築・維持に焦点をあてたパネル。青木雄太氏も登壇した冒頭画像のセッション。コミュニティコワーキングでは絶対王者に近いと考えているThe Social Hub(旧 The Student Hotel)からも登壇。Student Hotel時代の話にはあまり触れられなかったが、欧州では欧州市民権を利用した移動、被雇用の自由があるため故郷と働いている場所の2つのコミュニティを持つ人が多い(日本の県人会のり)。もちろん、短時間での意見の一致など期待しようもないが、それぞれが私はこう考えるという意見を表明していたのは興味深かった。
  • While many big office lease contracts arrive to an end, how to make flex workspaces the obvious new model for all organizations?
    Panel
    Liz Elamがモデレータをつとめ、私が利用しているWorklandからも登壇者が出たパネル。Liz Elamは既存リースからどうやってFlex workspacesに移行していくかに最近注目していて、各ブランドから、どの程度(大)企業ユーザーの契約があるか聞くところから始まった。多いところでは7割、少ないところでWorklandの4割。短時間で意見が一致することは無いものの、ABWへの対応の重要性ではコンセンサスが得られているように感じた。大きな箱を準備し、プライベートオフィス部分はやや小さめにして、会議室や集中スペース、ざわざわスペースなどのシェアをうまくデザイすれば、ユーザーの満足感でリース契約に勝てるという考え方となる。Design Officesが収益上はCoworkingは0.1%の貢献でしか無いと断言していたのを思い出すが、それはCoworkingでの契約の貢献という意味であって、ABW上は様々な種類のCoworking Space、空間共有が必要なのは言うまでもない。参加したオペレータの多くが刺激を受けただろうことを想像する。
  • Sales intermediaries, brokers, online aggregators : towards new incentive and commission models fitting with the flex world?
    Panel 
    不動産取引の手数料相場がオンラインサービス等で影響を受けているのではないかという疑問は誰しも持つ。Instant Groupからモデレータが出てCBRE等が参加するパネルで議論した。印象としては一部で変化しているもののディールの1割という相場に大きな変化はないようではあった。もちろん、そうでない取引も以前にもあったし、現在もあるらしい。Flexは契約期間の問題もあるので、更新料のあり方にも幅が出てきているようだ。ユーザーは、新規契約時にはブローカーに世話になりたいと考えるが、更新料をブローカーに払いたいとは思わないから、このあたりは難しいところなのだろう。パネルの面々もなんとなく口ごもる印象があった。

Day2

  • How to best serve a local ecosystem/audience of startups and entrepreneurs?
    Panel
    Pauline Rousselがモデレータをつとめたインキュベーション指向のスペースに招くべきプレーヤーの議論。NGOを含めるとスタートアップにとって予想外の収入源を見つける契機になることもあるという話は興味深かった。いずれにしても、都市部じゃないとねというコンセンサスがあってちょっと身も蓋もない感じもあった。
  • How to make suburban, regional or decentralized areas thriving locations for flexible workspaces?
    Panel
    都市中心部以外のコワーキングスペースに関するパネル。訪問したBizHubの人がパネルに入っていたため参加した。BizHubはソフィアの中ではあるが、ちょっと場違いな住宅地の中で、周りに露天があるような不思議な場所にあった。流行っているが、ビジネスセンターという感じはない。そういう意味で、都市型とは言えない感じはあった。
    車社会の場合は、駐車料金が負担になるので、条件がゆるい周辺部にはアドバンテージがある。都市部のスペースは機能重視になるが、周辺部の場合は居場所の提供の側面が強い。自宅で働くよりはコワーキングスペースで気心の知れた人のいるところで働きたいというニーズもある。
    郊外型だと不動産価格が安いので、所有者となって始められるというメリットが有り、オペレーションが成り立つと思えば、小規模でも良い。オペレーターの力量、魅力が問われやすい。
  • What are the layout and design musts in 2024 for coworking and flexible workspaces? What can't be forgotten?
    Keynote – Iwona Barszcz (Brain Embassy), Introduced by Vanessa Sans (Kalima)
    Brain Embassyは、報告者がこれまで訪問したスペースの中でもっともインパクトを感じたスペースである。まことに不思議な空間を提供するスペースで、2019年にワルシャワで訪問した時は遊園地のような雰囲気があった。その後も、どんどんスペースのレイアウトなどを変えている。ある意味ABWの実現で、同じスペースの中でユーザーは働く場所をその仕事に併せて選び変えている。
     

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    それを見ながら、スペース側もどんどんニーズに適用するように変化している。Flexオフィスの新しい形と言って良いだろう。レイアウト変更が失敗して利用されないケースもある。例えば、以下のスライドのサンドバッグ。見学者はほぼ例外なく受けると言う。しかし、いろいろ工夫しても実際には使ってもらえなかった。
     

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    それでもめげずに変化をし続けるのがBrain Embassyのすごいところで、支持されている理由でもあるのだろう。自社ビルを使うのが自由度の源泉。複数拠点で家具の使い回しをしているのも多様性を上げるために有効。
    すげーWorkspaceを作るぞという情熱のあるチーム。クセ強だが、ファンが付くのだろう。決して奇抜さや価格競争力で勝負しているわけではなく、科学的見地や空間設計、建築設計の専門性を活かして質的差別化を追求していて、それでもなお持続的に成長しているのが大変魅力的である。

  • Private offices for teams of 2 to 50 – How to manage inquiries for larger capacities?
    Panel
    再びLiz Elamがモデレータをつとめる大規模対応に関するパネル。
    パネル各氏に最大一社契約席数を発表させたところ、250、300、500などの表明がある中で、Brain Embassyは100〜120が最大で大きすぎる契約は断ると表明していたのが興味深かった。キーとなる100席を超えるような顧客を複数持てば安定するが、ABW指向だと巨大顧客は邪魔になるのだろう。長期的持続性を考えると印象に残る表明だった。一方で、席数が多いほど収益上は(少なくとも短期的には)有利になるので各社ともしのぎを削る感じで、大手を相手にすれば価格も期間も応談になる傾向が強いように感じられた。
  • Are Coworking and Flex Workspace operators to ultimately become full building management services providers ? - Conversation with Deka Real Estate
    Conversation –
    Jean-Yvesが聞き手となる伝統的資産管理事業者への認識ヒヤリングで、用語も難しくて良くわからなかったが、FlexオペレータとAsset Managementに携わる人の認識ギャップが極めて大きいことだけはわかった。統計的にもリース物件にFlexオペレータがつく形態から、所有物件への移行が進んでいるのは事実で、それ故のリスクが高まっている可能性も否定できない。黎明期には、リスクが過小評価されるのでそういう声に耳を傾ける必要もあるだろう。WeWorkが黒字化したら連携の可能性があるかという会場からの質問については、オペレータの黒字化は重要な判断要素になるが、それだけでは足りないというように答えているように感じられた。

もう一つセッション枠があったが興味のある内容ではなかったので、以上で私のCWE Sofiaは終了した。

全体を振り返ってみると、今年のCoworking Europeは一言でまとめれば、大規模Flexオフィスのさらなる台頭とまとめることができると思う。もちろん、そうでない事業者も健闘しているが、資本主義の大きなうねりの影響は回避し得ない。さらなるシステム・サービスや人材育成を含め、不動産関連だけでなく様々なビジネスチャンスが生まれていて、これからも変化が続くことが予想される。プレーヤーの入れ替わりの時期を迎えていると感じる面もある。

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