デジタル時代の基礎教養はITパスポート試験相当が妥当か?

hagi に投稿

テレワークマネージャーとして活動していると、中堅企業の経営者がどの程度ITの知識が必要なのだろうと考えさせられることがある。デジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めようと思うと、どうしても避けられないのがビジネスのモデリングだ。自分たちのビジネスのステークホルダーが誰で、どのような社会的な役割を果たすことが必要なのかをモデル化し、それをどうシステムに実装するかを考えないわけには行かないのである。

一番最初に考えなければいけないのは、コミュニケーションである。従来であれば店舗と営業担当が対外コミュニケーションの担い手となる。従来からある対面、電話・FAX・郵便、文書によるコミュニケーションのDXを進めなければどうにもならない。じゃあ、何を理解していれば企業の変革を導いていけるのかが問題となる。ビジネスに関する知識は社内に十分にあるだろうから、それをどうデジタル時代に対応させるのかが乗り越えられれば良い。

情報処理技術者試験は、国家試験で、一番最初の入り口はITパスポート試験である。対象は「全ての社会人」となっていて、情報処理技術者を想定したものではない。つまり、国家試験として社会人の常識の一つとして情報処理技術の理解度を評価する試験となっているのである。「ITパスポート試験」シラバス(Ver.6.0)はよくできていて64ページある。大分類は9つあり、1. 企業と法務、2. 経営戦略、3. システム戦略、4. 開発技術、5. プロジェクトマネジメント、6. サービスマネジメント、7. 基礎理論、8. コンピュータシステム、9. 技術要素。企業の経営者であれば、1と2は馴染みがあるだろうが、あとは人にもよるが、従来型のビジネススタイルであれば自分が考えることではないと思っているケースが多い。システム戦略は自分が決めないといけないことは理解しているが、まあ、なかなか腰を上げるのが難しい。

そして、自分が最低限の知識を持っていないと、社員に指示することもできない。

一方で、大企業では全社員にITパスポート試験の合格を目指させるところもあり、インセンティブをつけている会社もある。知識があっても実践が伴わなければ意味はないが、例えばサービスマネジメントという用語からそれが何を意味するかをイメージできるかどうかで、外部委託する場合のコストが何倍も変わるケースがある。何を自分でやって、何を外部に任すかが判断できるか否かの差は大きい。

ではITパスポート試験を一つの目標にして勉強してみようと考えたとする。いろいろな受験支援サイトなどを見る限り、IT初心者でも100時間程度時間をかければITパスポート試験は合格できると書いている。100時間は短くはないが、週2時間でも1年かければ100時間になるから今後10年、20年のことを考えたらやらない手はない。まあ、やればよいだろう。

シラバス本文が50ページ強なので概ねシラバス1ページの範囲を2時間でクリアすることになる。「企業と法務」は9ページ。18時間で「企業と法務」を理解することなどできるわけはないのである。つまり、試験に合格することと、その目標である「企業活動や経営管理に関する基本的な考え方を理解する」にはギャップがある。まあせいぜい言葉を理解できるようになり内容の薄い会話が可能になる程度が目標ということだ。ちなみにプロジェクトマネジメントは1ページ、サービスマネジメントは3ページである。プロジェクトマネジメントを2時間で理解できるならプロはいらない。しかし経営者が「プロジェクトマネジメントの意義,目的及び考え方を理解する」ことはとても重要である。2時間で理解できる範囲でも理解していてほしいと願ってやまない。

行政の人にも全員ITパスポート試験程度の知識はあった方が良い。

Google Workspaceを使えるようになりたい、とか、テレワークを実施できるようになるために社外からファイル共有ができるようにしたいといったニーズだと、結構頑張って取り組む経営者は少なくない。そして、その気にさえなれば、もととなる知識が厚くなくても半年程度で自力で環境整備はできる。さらに一年程度取り組めば使いこなせるようになる。もちろん、高度化に果はないが、動き始めれば何とかなる。

ただ、その次になると、やはりITパスポート試験相当の基礎知識がないと経営戦略を立てるのは難しい。若手にやらせるだけではうまくは行かない。

どうやったら、次の一歩を踏み出す気になれるのか考えている。もちろん、相談者が目指す場所にできるだけ早く楽に行けるように応援するのがコンサルタントの仕事なのだが、基礎体力をつけないと遠くには行けない。

蛇足になるが、調べていたらITパスポート試験ドットコムというサイトがあって、ITパスポート過去問道場があった。試しにやってみると、20問やって1問間違える程度だったから、今でも受験すれば合格できるのではないかと思う。余談になるが、Drupalの人材育成をやる場合でも、最初は操作を覚えてもらうところから始めて、自分である程度のことができるようになるのが王道だと思うものの、そのステップを過ぎたらITパスポート試験をクリアしてもらうのが良い気がする。ついで、基本情報処理技術者試験までクリアするに越したことはないが、CMSのエンジニアであれば必ずしもその9つの大分類を全て網羅する必要はない。ITパスポート試験の得点を上げるような努力をしつつ、必要なところを深堀りすれば良いだろう。ただ、エンジニアと言えど、ITパスポートの「企業と法務」、「経営戦略」、「システム戦略」は常識のレベルでクリアすべきだろう。今は、AIだってWebサイトで独力の勉強で一定の目的を達成できるようになれる。しかし、技術だけでは世の中を良くすることはできない。

※冒頭の画像はIPAのページから引用させていただいたもの