情報銀行とマイナンバー

情報銀行サービスDprimeのキャンペーンメールがきて、後で見るモードにしていたが、ようやくサービス内容を確認してみた。

Dprimeがサービスとして優れているかどうかは私にはよく分からないが、情報銀行というモデルには疑問を感じた。取引履歴を仲介者に預けるのは何か変な気がする。

製品やサービスに関する取引をしたら、製品・サービス主体と自分との間の情報が漏洩したり知らないところで流用されたりすることのようなことがない形で製品・サービス主体で保管されるべきで、その情報をいつでも本人が取り出せるのが望ましい。

マイナンバーカードの電子証明書が利用できるようになったとしたら、ユーザー×商品・サービス×委細の取引情報をマイナンバーの公開キーを用いて暗号化しておけば中身は見られない。その署名履歴にマイナンバーを結びつければどの主体が私の取引情報を保有しているか検索することも可能になる。リコールなどの時には、商品・サービスから取引情報が引ければ、ユーザーを特定できる。そういったインフラがあれば情報銀行が必要な感じはしない。政府がオープンソースソフトウェア方式に転換すれば、業者の負担も小さいし、付加価値をつけたクラウドサービスも複数立ち上がり、競争関係も生まれるだろう。

逆にリコール時などのトレーサビリティは確保した上で、匿名取引をしたければ、仲介者が必要になるだろう。マイナンバー以外の取引ごとに振り出されるIDで事業者との取引を行えば、事業者は個人を特定できないが、仲介者経由で通知を発することは可能になる。匿名取引がしたければ相応な対価を支払えというモデルとなる。

現金の匿名性を基本にすると匿名取引にユーザーを結びつける形が自然になるけれど、取引には主体があるので、主体が記録される取引をデフォルトにして匿名性を例外扱いにすると扱いが大きく変わる。大量の個別取引の管理が容易な情報時代にはむしろ匿名性の確保を放棄したほうがコストは安くなる。取引情報を管理するために情報銀行のような仲介者を導入するか、匿名性を確保するための仲介者を導入するかの違いとなる。私は、このものの見方の大逆転がデジタル・トランスフォーメーションの本質だと考えている。

もちろん、暗号技術には限界があるので、いつの日にかは破られるだろうが、強度も時代とともに向上させられるだろうから、新しい取引の秘匿性は保たれるだろう。建物の耐震基準のようなものだと考えれば良い。

マイナンバー制度設計の失敗が日本のデジタル・トランスフォーメーションを妨げている。幸いサービスの普及が遅れているので、今なら再設定のコストは相対的に小さい。デジタル庁の関係者でもその事実に気がついている人は少なくないはずだ。早い時期に声が上がってくることに期待したい。やがて国際社会の競争環境が大きく変わり古い制度が重荷になる日がやってくる。