不動産大手のCushman & Wakefieldが最強のホテルは再起のために戦略的な動きを行っている(THE STRONGEST HOTELS ARE STRATEGIZING FOR A SUCCESSFUL COMEBACK)という記事を書き、その中でアムステルダムのZOKUの動きを紹介している。ZOKUはコワーキングの発展形として紹介されることの多い、コワーキングスペース併設の滞在型ホテルで、私も宿泊したことはないが、複数回訪問している。アムステルダムは、ある意味で欧州のニューヨークというイメージがある。様々な国の人が登ってきて、そこで新たな人生を築き始める場所だ。ゲイが堂々と歩いていたり、公営の売春が行われていたり、麻薬規制がゆるいなど、自由が守られる印象が強い。一方で、サイエンスパークの整備やコワーキングの振興など、経済面で様々な好ましい取り組みがなされている都市でもある。貯金をためて地方(例えば東欧など)からアムステルダムに出てきてZOKUに3ヶ月住んで、コワーキングの活動も行って、やがて仕事を見つけてアパートに移っていくという道がある。とても興味深いホテルだと思う。
ZOKUはもともとコワーキングに取り組んできていたこともあり、最近はPRIVATE WORKLOFTというサービスを提供している。Cushman & Wakefieldでは50ユーロ/日となっているが、この記事を執筆している時点では、55ユーロ(7,000円弱)/日で利用可能時間は9時から17時半、ランチ付きで、ZOKUの宿泊用の部屋一室をフルサービス付きで貸している。もちろん、コーヒーメーカーは各室に配備されている。Executiveオフィスより快適だろう。気になるのは、椅子の品質くらいだ。オフィスワーカーが20日間このWORKLOFTを利用したとすると14万円となるので、ちょっと良質なオフィスの従業員1人あたりのコストとあまり変わらない。ペーパーレス化が進んだ企業であれば、手ぶらで大抵なことはこなせるし、満足度でも生産性向上観点でも有効なソリューションとなると思う。
ホテルの一室をサービスドオフィスとして提供しようという試みは、日本でも急速に増えている。私の自宅から歩いていける範囲でも複数のホテルでそういうサービスを始めている。ただし、寝るだけの目的に特化して設計されているような部屋では、ワークスペースとしての体験は得られない。むしろ、旅館のように布団を片付けて居間に変身させる形の方が可能性が高いだろう。新たに建設されたり、模様替えを行うホテルは、居室のデザイン変更とパブリックスペース(コワーキングスペース)の再設計が行われることになる。供給が増え、競争が激しくなると、品質も上がっていくだろう。リモートワークの常態化でとくに問題となっているWeb会議等のプライバシー確保の問題にはZOKUのようなアプローチには高い優位性がある。
不動産業界は、確実に激変期を迎える。サービス産業化は避けられない。コワーキングスペースも大きな影響を受けるだろう。既に日本でも良い感じのゲストハウスが出てきていて、安価なものから高価なものまでやがてバリエーションが充実していくことになるだろう。旅館業法を始め様々な規制があるので、環境変化に対する対応力が鈍くなるだろうが、そこで過ごす人の安全、利便性を高めるというサービス業の本質に戻って考えれば、一つの枠組みで考えられたほうが良いように思えてならない。