科学から見た人間の〈多様性〉とは何か 遺伝科学と疑似科学 読了。
序文は、「ニューヨークやロンドンのような国際都市で過ごしたことがある人なら、そこでさまざまに異なる人々と出会っただろうう。」という言葉から始まる。個人的な経験として、体格面でも黒人でも小ぶりな人はいるし、そもそも黒人と呼ばれる人が一様なわけではなく結構いろいろな人に会った。聡明さや仕事ぶりは個人差の方が明らかに大きい。むしろ、育った環境の影響のほうが人種や性別といった属性より遥かに大きいと感じられる。同じ学校の同級生でも教育によって得られる能力は均等ではない。遺伝的な影響もあると思うが、生きている環境の影響によって、時代の成功者になったり敗者になったりするが、環境も変化する。同郷の嫌な奴よりは、異国の気のおけない友人のほうが頼りになると言ったケースは多い。
個人の感覚は個人の感覚に過ぎないが、科学的、統計的な相関分析を行えば、その感覚が正しいのかどうかは確率的な評価が可能になる。原著名は「Understanding Human Diversity」で、直訳すれば「人間の多様性を理解する」となる。単純に言えば、人種による平均値の差より個人差の方が大きいという事を本書は示している。読者の多くは経済的に豊かな人だから、どこかで自分には生まれながらの優位性が備わっていると思いたくなる誘惑には勝てないが、本書はそれを幻想としている。言い換えれば、慢心すれば凋落するのは必至という話だ。
最終章の「よくある誤解のまとめ」は本当に良いまとめになっていると思う。最後の最後の誤解5「科学は道徳とは無関係である」は著者の考え方を端的に表現していると思う。その主張が今ひとつ科学的でないところに好感した。