Talsinki

現在滞在中のタリンのホテル・コワーキングスペース間で工事が始まっていて、その看板にTalsinkiと書かれていた。

TallinnとHellsinkiの合成であることはすぐに思いついたが、Talsinkiという言葉はタリンの人にとってヘルシンキ・タリントンネルを想起させる言葉だった。今年は予定していないが、毎年週末日帰りでフェリーを用いてフィンランドに行くのが通常となっている。もし、電車などで1時間で行けるようになったら実質往復6時間が2時間になり、4時間も滞在時間が伸びる。船が車や電車に変わるのは大変なことだ。

フィンランド語とエストニア語は共通点が多く、エストニアの人たちはフィンランドへの親近感を強く抱いているように見える。タルシンキトンネルで1時間で車や電車が行き来するようになる未来が来たら夢のようだと感じている人は当地に少なからずいるようだ。

現在進行中の開発は小規模の東京ミッドタウンのようなもので大した規模ではない。タリンではたくさんの建設事業が進められていて、1年経つと見慣れない建物が建っていたり、道路や階段がきれいになっていたり、新たなトラム路線が開通したりしている。

タルシンキトンネルについては、今のところ具体的な動きは無いようだが、ちょっと調べてみるとそれはRail Balticaという壮大な構想の一部となっている。ヘルシンキから、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドを経由してベルリンまでの鉄道線構想で、バルト3国内での建設は着々と進んでいる。現在の内陸を通る鉄道線バルガ

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経由リガ(ラトビア)、ビリニュス(リトアニア)ではなく、パルヌという海沿いの街

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を通り、カウナス(リトアニア)を経由してワルシャワに向かう。ざっくり最短ルートと言えるだろう。

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現在は、タリン・パルヌ間は鉄道はなくバスで2時間程度の移動で、パルヌからリガへもバスで向かうことはできる。ERRという報道機関が11月5日の記事で、ラトビア国境の街Iklaとパルヌの間の地質調査が進んでいることに触れているし、膨大な予算に関わる記事が11月26日に出ていた。

Rail Balticaが機能するようになると、ベルリンはもちろん、パリや遠くロンドンまで鉄道網がつながるようになる。時速200km以上の列車が走るようになる予定でタリン・ワルシャワ間が900km強なので、ポーランド側の努力も必要だが4時間程度で移動できるようになる。ワルシャワ・ベルリン間は現在でもECが5時間弱(550km程)で繋がっている(遅い)。ベルリンからブリュッセルまで6時間程度、ブリュッセルからロンドンまではEurostarで2時間強で繋がっている。

ベルリンからは、コペンハーゲン経由でストックホルムまで19時間かかるが電車で繋がっている。ただし、ストックホルムからヘルシンキは繋がっていない。ただ、もしタルシンキ線が開通したら、ストックホルム・トゥルク(フィンランド)間のリンクも具体化計画がなされることになるかもしれない。何となく、日本の新幹線構想に近いものがある。本四架橋も想起される。

ちなみに、ヘルシンキ・サンクトペテルブルグ間(約300km)にはウクライナ戦争前は高速鉄道が走っていたが、現在は国境が閉鎖されているため運行していない。かつては、タリン・サンクトペテルブル間にも鉄道が走っていた。今も国境のナルバ駅からは閉鎖されている鉄道橋

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が見えるし、かつてのパスポートコントロールの施設も残っている。
陸路のトラックもヘルシンキからサンクトペテルブルグ経由でタリンに向かえば約700kmと長いが、東京・岡山間程度。現在は陸上輸送路は存在しない。もし、ウクライナ戦争前にタルシンキトンネルができていたら、景色は全く違っていただろう。ただ、英仏海峡トンネルや青函トンネルより長いし、容易に作れるものではない。恐らく、実現する可能性は低いだろう。

改めて、プーチンの決断が世界中の多くの人々にどれだけ不便を強いているのだろうと考えさせられたのであった。たった一枚の看板からなのに…。

注:本記事はFacebookで投稿したものに加筆訂正したもの。エストニア・ラトビア国境は2024年にタリンからタルトゥ経由の電車で訪問した時のもので、Pärnuは2023年にLuxバスで訪問した時のもの。Narvaはほぼ毎年訪問している。写真は2024年のもの。

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