ル・ペン家の人びと

ル・ペン家の人びと読了。トランプが2期目を迎え、高市氏が首相になる時代。右派の象徴的存在で市民からの支持のあるマリーヌ・ル・ペンについて日本人の著者が丁寧に書いている本ということで手に取った。読みやすく、わかりやすい。

書籍は、第一部 ジャン=マリ・ル・ペン、第二部 マリーヌ・ル・ペン、第三部 マリオン・マレシャルとなっていて、それぞれ、歩み、思想・政策、インタビューの章があり、合計9章となっている。民族アイデンティティを推す点では共通しているものの、3人の考え方もアプローチも異なっている。正直な感想として、3人ともかなり危険な人物に感じられる。基本的に独裁指向で権力を持たせば暴走しそうな匂いがあるからだ。ジャン=マリはユダヤ人ホロコーストを「第二次世界大戦の歴史で些細な事」と発言して敵を作っている。マクロで見ると差別的だ。一方で3人とも個人として差別的な人には見えない。人種、性別にかかわらず人間関係を結ぶことができる人のようだし、ミクロで見ると利害の衝突がなければ寛容なのだろう。

権力を好むという軸で見れば、3人ともトランプや安倍、高市あるいはプーチン、ネタニヤフと同様なレベルで独裁指向だ。権力を得るためには虚偽の発言などどうでも良いことであり、選挙での支持を得やすい発言についてよく考えている。結局は数であり、数を作るルールであり、支持母体の確保であることに優先順位をおいている。しかし、そういう人は必ず瑕疵が暴露されてしまう。長期持続性はない。マリーヌは秘書給与流用、政治と金起因で有罪判決を受けている。恐らく、彼女は(安倍のように)それが何だという気持ちでいるだろう。ジャン=マリ同様、もっと大事なことの前では些細な事と考えているのだろう。

ただ、時代はケースを重ねながら進んでいく。本書の「はじめに」で言及されているが、イタリアのメローニは首相になっても意外と丁寧だし、マリーヌの脱悪魔化の発言も興味深い。メローニが単独政権になった瞬間にトランプ化するかもしれないが、今のところ、過激さは感じられない。

人は必ず死ぬ。本書はジャン=マリの死去に伴って時機を得た出版だが、誰もが必ず死ぬ。恐らく50年程度は経過しないと冷静な評価はできない。権力者による歴史改竄は繰り返し行われているが、所謂王家(権力系譜)が倒れればやがて事実は明らかになる。高市が引用する十七条憲法などフェイクで間違いない。しかし、安倍自民党サムライ画像と同様にその時期には正統性を高める効果が出る。いくら高市が安倍の後継者を自称したとしても、アベノミクスのつけにさらされている現実は否定しようがない。バレれば終わりというのが自然な流れだが、バレかけても押し通せる可能性があるのが人間社会である。マリーヌも有罪を乗り越えて表舞台で活躍する日が来るかもしれない。

本書は、亡くなったジャン=マリを除けば、いまも進行中の権力闘争の話でもある。私にも閉塞感の打破への方策の模索へのあこがれはあるが、博打的な手法の危うさを考えさせられる本でもある。読んで良かった。

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