Coworking Europe 2023 – Porto Conference

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2023年のCoworking Europeはポルトガルのポルトで、11月27日〜29日に開催された。

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川沿いのAlfandega Do Portoという場所は、美術館の建物でもあり、趣のある大きな会場だった。2014年のCWEはリスボンで、ポルトガル訪問は今回が2回目。リスボンも坂の街だったが、ポルトも坂の街で、自分のイメージの中ではどちらも歴史のある街だが、少し時代に取り残されているのではないかという印象を持っていた。しかし、今回の訪問で印象は一変した。

昨年2022年のアムステルダムは2018年にも開催された街で、The Student Hotel(現在のThe Socil Hub)を含め自治体が都市づくりを行うに当たってコワーキングスペースとの連携を重視していたこと、それが街を変えていった様を見た。ポルトも観光客の多い街だが、ポルトガルの外から若い人を集めようとして動いている点は共通している。教育機関のための環境を整えるだけではなく、留学してきた学生がベンチャービジネスを立ち上げたり参加したりする環境を整えて、街の再生、発展に注力している。そして成果が出始めているのだ。観光客の多い街は知名度があり、Nomadも惹きつけられる可能性がある。アムステルダムはサイエンスパークの造成などが印象に残ったが、ポルトは学園都市とベンチャー支援と観光地としての魅力向上を組み合わせた取り組みを行っている。共通するのは、そこに住む人への投資というより、多様なタレントを国外から呼び寄せる力をつけることで、経済的に成功しようという考え方である。

ポルトの場合は、建物も外観は徹底的に保存しようとしている。中身をくり抜いて手を入れても、景観はまもろうとしている。

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会議場も中には様々な手が加えられているが、歴史のある街という景観にマッチしている。

一方で、中心部から離れた場所では景観の制約がなく、機能的に整備されていて、利便性も高そうに感じられた。初日のコワーキングスペースSelf Guided Tourで訪問したPolo Universitário駅周辺はポルト大学を中心に様々な教育・研究機関が集まっている学園都市で、学生寮がビルのようにそびえ立っている。

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この建物は学生寮で一部屋一部屋は広くなく学生にとって最低限の環境が整えられている一方、ラウンジもジムもあって、学生間、住人の友人が集うのに適した環境が整っている。200名ほどの住民は同じ大学に通っているわけでもなく、20カ国以上の異なる地域から集まっていて、やや女性の方が多いらしい(欧州では女性の方が進学率が高いから自然とそうなるとのこと)。The Student Hotel同様、ここで多様な出会いが生まれ、それが出身地の後輩に情報共有され、タレントが集まってくる助けになっているように感じられた。

日本だと地方から都市部に出てくるというイメージがあるが、専門性も考慮しつつ、良質な環境を欧州全域から探して、自分に適した場所で青年期を過ごすということなのだろう。

もちろん、好印象がある一方で、相対的に貧しい感じはあるし、廃墟となっている場所も少なくない。再開発が進む過程で街も変わっていくだろう。また、外から若い人が集まってくるのを面白く思わない人、地元優先を主張する人もいるし、取り残された感を抱く若者も老人も存在する。アムステルダムの政治状況を見ても、揺り戻しは起きているし、今のポルトの勢いがずっと続くかと言えばそんなにうまくいくとは思えない。

タリンでも似たようなことは感じたが、伸び始めは輝いていても、ずっと同じ輝きが続くわけではない。普段の努力をしても風向きは変わるものだ。一時期が過ぎたら、次の形を探らないといけないのだろう。成功事例を模倣しつつも、時期に応じたオリジナリティを組み合わせなければ持続性は低い。タリンの場合は、まだまだ毎年様々な変化が起きていて、引き続きすごいエネルギーを感じる一方、この感じが永遠に続くことは無いだろうと感じる程度には風向きの変化を感じる。ウクライナ戦争の影響も大きい。

会議の進行は、恒例のDeskmag SurveyとInstant Groupの発表から始まった。

Deskmag Survey - How are big players and independent operators living along one another while flex demand keeps growing in the EU

サーベイの結果として52%のスペースしか黒字になっていない点が指摘された。全体としては強気なのだが、新メンバーの取り込みや家賃の高騰などが悩みとなっている。経営を成り立たせるために46%のスペースが専有オフィスを増やし、43%のスペースがコミュニティ活動を減らしている。個々の成功や撤退はともかく、伝統的なコミュニティコワーキングは劣勢になっているように感じられた。広告を除くソーシャルメディア発信がもっともコスト効果のよいメンバー獲得の手段だと5割以上のスペースが答えている。コワーキングの認知が進んだことで、厳しい競争環境にさらされるようになったと取ることもできるだろう。

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Instant Group - Flexible office market main trends and forecast in Europe from 2023 data

長期的には楽観、短期的にはコスト増が痛手というコメントから始まった。需要と供給の伸びが高いのはワルシャワ、ミラノ。需要は大きいが供給が伸びていない場所もある。スタッフの質が契約獲得・維持の決め手と考えるスペースが49%。

Deskmag視点だとFlex Officeに食われている感がにじみ出るが、Instant Group分析だと、コミュニティコワーキングのホスピタリティ感を出せなくて苦戦している感がにじみ出る。非常に興味深い。ワルシャワもミラノもかつてCWEを実施した場所で特にワルシャワの印象は強い。どちらの都市もどちらかと言えば、Flex Office需要の高さを感じた場所だ。良質で安価なオフィス物件が少なく、新しいビルにサービスドオフィスが入っている感じ。ビジネスが動き始めている、変化している最中だというイメージ。中国などの外国企業が拠点として利用しているケースも散見される。地域のフリーランスの居場所と言うよりは、どんどん変化する組織が動き回っている街という感じもある。ポルトも供給も伸びていて、成長サイクルに入っているのがわかる。

今年は、続いて商業不動産大手のCushman & Wakefieldからの分析報告があった。

How coworking users profiles are changing and main trends in Europe

多くのCEOがオフィスに従業員を呼び戻そうとしているというコメントが際立った。リモートの拡大を指向しているところは少ないとのこと。ただ、従来のリース契約も管理サービスと組み合わせたものが増えていて、箱だけでは売れなくなる傾向にある。都市部への本社機能の回帰も起きている。回帰といってももとに戻るわけではなく、サービスドオフィスが優位にあって、既存のリースオフィスの大多数が時代遅れになりそうな状況に感じられた。なお、会場からのコメントで米国の分析なのではないかという話も出た。

他のセッションで印象に残ったのはポルトもの

Housing and co-living projects soon to become the main providers of coworking services locally?

パネリスト発表者の一人のFeel Portoという会社からの発表のインパクトが大きかった。Feel Portoは、賃貸アパートを旅行者向けにサイトで予約できるようなサービスをやっている。観光全般に関わりを持つが、必ずしも観光だけではなく国内近郊からの長期滞在にも対応している。最近コワーキングスペースの運営も新たに始め、仕事をしながら旅をする人を支援できるようにサービスを成長させている。また移動サービスとの連携も進めている。家具・サービス付きアパートメントという考え方は、安価なホテルとして認知されているが、ワークスペースを提供できれば部屋はコンパクトで済むので、ビジネス的な観点でも宿泊施設とコワーキングは補完関係にある。身一つでポルトに来ても困らないよというサービスラインは魅力的に感じた。不動産業的な視点で見れば、ビルを一棟まるごと開発して、アパートやコワーキングを収めるといった考え方に立つのはありだろう。Feel Portoではパートナーシップでホスピタリテイの質を確保しようとしているが、困難もあるようだ。ただ、デベロッパーや投資組織のような視点で取り組んでいけば大化けする可能性があるだろう。他のパネルはやや霞む形になってしまった。

コワーキングスペースに来る人に対するホスピタリティという視点と、ある一定の客層を念頭において、求められるホスピタリティは何かを考えるのではビジネス決断が変わる。

蛇足になるが、CWEは結構市長の挨拶があって、コワーカーにやさしい街を目指しているという声明がなされるのが定番となっていたが、今年は行政からの発表はなかった。代わりにFeel Portoのスピーチがあったのが印象的である。実際には、行政との関わりは相当大きいと思われるが、民間にうまく任せてビジネス開発スピードを上げようとする考え方はうまく行けば競争力がでそうだ。もちろん、失敗のリスクもある。街の再開発はビジネス環境の変化にも大きく影響する。

もう一つのポルトもの

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Greater Porto and New Projects in Town

前のパネルで登壇したFeel PortoのNuno Trigo氏、市議会議員の方など関係者4名の発表。最初は議員の話。ポルトはポルトガルのGDPの37%を占め、成長企業の半分がポルトにある。西ヨーロッパの成長を遥かに上回る成長を遂げている。世界から注目される投資対象の街に育てる考えで、人材の質に注目している。QOLの中にはノマドフレンドリーも項目に含まれていた。ある意味で、遅れてきた古い街が覚醒して急速に追い上げてきているさまがよく分かるものであった。勢いがある。

次は、ビジネスハブのプレゼン。自分のことをキャンパスと呼んでいる、11万平米の計画で小売やサービスを含め新たな街を作っている感じ。持続性にも注意を払って、未来の街を実現しようというイメージ。Happiness as a KPIといった発表で計測をしているが、個人的にはちょっと気持ち悪いと思った。

最後は、廃墟となっていた屠殺場跡を再生させたプロジェクトの紹介。中心部から地下鉄で5駅程度の利便性が高い場所。隈研吾のスピーチビデオも含まれていた。

動いている街、変わりつつある街ポルトという強烈なイメージを聴衆に与えたと思う。

ちなみにWelcome Partyはビジネスハブ(結構遠く公共交通機関だと中心部から1時間以上かかり便数も少ない)で開催された。人工的な街という感じで、少し遊園地感がある。

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モールのようでもあり、人工的に作られた若者向けの街という感じ。

3日目(2日目)のセッションで印象に残ったのは、Digital Nomads and local communities - How to create a positive and lasting experience for all?パネル。

Nomadとローカルビジネスとの接点をサポートするのを強みに上げているスペースもある。会場に海外からの利用に取り組んでいるスペースはあるかと問うと4分の1位の人の手が上がった。ポルトガルのスペースで7割がブラジルの人という事例が紹介された。スペースで公用語を英語ではなくポルトガル語にしたところブラジル人から人気が出た。マデイラでノマドを受け入れているところは環境を準備して成功しているケースの紹介もあった。本当に住人になってしまうケースもある。物価が安く、観光地されすぎていない状況が望ましいとのこと。

ローカルと以外の人で英語でランチを(継続的に)一緒にするのは有効という話があった。朝食はコミュニティビルディングのツールとしてよく使われているが、働く時間帯に差があると朝集まるのは難しい。

NomadXは街のレストランの意識改革からやった。デジタルノマドには結構菜食主義者がいることから、メニューを追加してもらった。住居を準備してローカルの店を使ってもらう。赴任者も同じように扱う。オフシーズンに価格が安いのを好感して来るノマドもいる。逆に暖かい時期に来て、秋になると去っていく人もいる。
ノマドはテンションが高い。飲みに誘ったりするし、去る前にフェアウェルパーティを開催させたりする。英国から来る人がシリアスでなかったりするから驚きだという声もあった。

マデイラではNomadXが仕切っているので、データが揃っていて、ノマドがどんな消費をしてどう動くかは統計的に推定できるレベルになっている。推進する民間事業者と行政の理解が重要になるように思われた。データの蓄積はリスボンではなされてなく、それは残念なことだという表明もあった。

マデイラは繰り返しCWEの開催地として立候補しているが、今のところ動きはない。CWEが開催されないとしても一度は訪問してみたい場所となった。ノマド向けの医療サービスも一定レベルで整備されていると言う。

全体を通しての感想としては、コワーキングをコワーキングスペースの視点で見る時代は過去のものとなりつつあるということであり、都市開発の視点が強く表に出てきていると思う。もちろん、都市ばかりではなく、いわゆる田舎にもチャンスがある。ただ、個々のコワーキングスペースだけが努力して形を作っていくよりは、街づくりの視点で行政と連携して取り組んでいくことで効果を出しているケースは増えているように思う。一方で、行政起点の動きには空回り感もある。GCUC UKでデベロッパーとコワーキング運営者の連携の話もあったが、それぞれの特徴を活かした連携が望ましいということだろう。

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