GCUC UK 2023

hagi に投稿

2023年11月2日から11月3日(スペースツアー)にかけてLondonのConveneでGCUCが開催された。たまたま、その時期に欧州滞在だったため出席した。北米のGCUCは何度も参加していて、今春はシカゴで参加したが、ロンドンのGCUCの参加は初めてだ。とは言っても開催者グループの大半は北米のメンバーと変わらないので、見知った顔が多かった。

イギリスにはCoworking spaceがたくさんある。恐らく世界一の密度だ。編集者が多い場所や、ITエンジニアが多い場所などもあるが、法人やチーム単位で使うServiced Officeが多い。検索サイトもオフィスリースとの境目がないものが伸びているように見える。20名のプロジェクトルームをシティから20分以内で探したいといったニーズに応えるようになっている。もちろん、フリーランサーの固定デスクやコワーキングへの対応もあるが、オフィススペースの当たり前の選択としてFlex Officeが考えられるようになっている。

全体としての学びとしては、

  1. Flex Officeは当たり前の選択肢として定着した
  2. Co-workingとCoworkingは対立する概念ではなく連続するスペクトラムのようなもの
  3. Workspaceの選択要因は周辺環境に左右される傾向が強まっている

というところだろう。

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最初のセッションは

The Good, The Bad and The Brilliant: A Look at the UK Market ‐ The Instant Group

で市場の全体を分析した内容だった。Instant Groupの発表は、GCUCでもCoworking Europeでも定番のキーノートになっており、彼らのもつ情報量の多さから、トレンドが垣間見える。Flex Officeの需要は供給増を上回っていることから、コロナで起きたリモートワークの浸透の結果オフィス需要は現象したという説はなりたたないことがわかるという話があった。ただ、原価は上昇していて大家にとっては厳しい時期が続いているとのこと。

今後(2030年)の予想については、InstantはFlex Office比率を23%と見込んでいる。JLLは30%。現在は8%程度なので23%でも大きい数字ではある。実績推移を見ると2018年以降伸びているとは言えない。会場に聞いたら、2030年に30%に達すると考えている人は3分の1程度だった。

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9:40 am - 10:20 am Keynote Be More Pirate 🏴‍☠️

海賊とコワーキングの対比で活性化を奨めるプレゼンテーション

海賊は、剣呑なイメージがあるが、海賊の内部の掟、海賊間で守るべきルールは一定レベルで機能していて、一度握ったら力を合わせて目標を達成する力を発揮する。創造性、誠実性、相互尊重は原点に多様性の許容がある。能力があるものは出自に関わりなく登用するという考え方で、水盃を想像させる。柔軟に組む海賊を組み替えながら成長していく様を見倣うべきだという話には、惹かれるものがある。簡単に言えば、自社オフィスに閉じこもっているような組織はやがて負けるという話であった。

コワーキングスペースオペレータは場の提供者でどう活性化できるかが問われることになる。

10:20 am - 11:00 am Panel Innovation, Impact & Income: The Coworking Equation

運営者のパネル。当然、前のプレゼンの影響を受ける。

プロフェッショナルとしてどうコワーカーあるいはコワーキングスペースに属するスタートアップなどのチームを満足させるかという議論になっていった。運営者(経営者)には自分の考える理想がそれぞれにあるが、客商売であることは間違いない。運営者が尖っているのは魅力になるが、逆に運営者が尖っていると多様性が失われるリスクもある。ホットデスクとチームに有効な月額契約はビジネスモデルが違うので、そこにも特徴が出る。コワーキングの勝利の方程式など恐らく存在しないが、その追求が差別化を産む。何か新しいものが生まれるためにはどうしても規模は無視できない。経営観点では、儲からないと続けられないが、儲けに注力しすぎれば壊れる。

個人的には、健全な規模拡大の重要性を考えさせられるセッションだった。

もう一つ取り上げたいのは、最後のセッション。

4:00 pm - 4:40 pm Fireside Chat ‐ Occupiers and Landlords Working Together for Enhanced Building Experiences - Dan Higginson & Liz Elam

今回の会場のConvene(シカゴのGCUCもConvene)の人と、不動産の会社のパートナーのやりとりの予定だったが、GCUC CEOのLiz ElamがConvene側の代理を勤めた。

大家が持っている不動産をコワーキングスペース会社に貸すというモデルではなく、デベロッパーがコワーキングスペース運営会社と連携して、適切な物件を探してオーナーと交渉するか、物件を購入または構築して貸すという形態を取った話。日本の話で言えば、地上げ屋が土地をまとめて、大手不動産会社が買い取ってビルや街を作ってテナント募集するのとちょっと近いかも知れないが、コワーキングスペースの地位がかなり高まっていることを感じさせる話だった。ちなみに、今回Greycoat Real Estate LLPは三井不動産とジョイベンで開発を行っている

ビジネス的に考えれば、大きなカンファレンスをホストするConveneのようなスペースが入れば、金が動く。イベント時は財布の紐も緩むので、そのビルの飲食店も儲かるし、優良な利用者(あけすけに言えば金持ちメンバー)が入ってくれれば経済効果が生じる。従来は大企業にリースすればその周辺が潤うという構図だったのが、優良コワーキングスペースはそれに勝るとも劣らないと考える不動産事業者が現れているということだ。
US、UKはビジネス指向が強いのが伝わってくるセッションであった。コミュニティコワーキングの理念を尊重しつつも商売は合理的にやろうとするのが英米スタイルと言えるのだろう。欧州の他の国とは違う感じがする。

大家は概ね保守的でFLEXは好まないが、成功事例は儲けも大きいようで、腕の良い不動産会社にはチャンスとなるのだろう。

午前中のInstant Groupの発表では、コワーキングスペースはサステナビリティ投資をほとんどやらないと残念がっていたが、2極化は進んでいて優良企業はちゃんとした物件を選ばなければいけない状況にうまく乗るケースもあるようだ。

大家、不動産会社からするとビルあるいは街の魅力が上がるか否かが設けを左右するので思いっきり知恵を絞っているというのが分かる。日本でもヒルズブランドの森ビルや東京ミッドタウンブランドの三井村、丸の内などの三菱村など街ごと作り上げていく動きはあるが、そういう垂直統合モデルではなく水平連携モデルが機能しつつあるということだろう。

ESGも再びキーワードとして出てきた。地球温暖化が進めば当然先進国政府は規制を強化せざるを得ない。不動産会社は準備を進めていなければやがて破綻が待っていると考えているようだ。

QAではWeWork破産の話も出た。IWGの11章適用の話も出た。

運営者視点ではホスピタリティが基準で、WeWorkはそこで良い成績を出せなかったとLizは言い、Greycoatの人はその客層の問題を指摘した。ヘッジファンドなどを店子とした場合に火水木だけが混んでしまう。多様性が足りなかったという考え方も成り立つ。金払いの良さそうな客を掴めばOKという時代が終焉を迎え、多様なものを受け入れられなければ生き残れない時代が来たと聞くこともできるだろう。

Lizのクロージングリマークは、競い合うだけの時代は終わった、助け合う時代になったのだというもの。午前中の海賊モデルと通じるものがある。

Conveneに関して引用した上の記事でも「Convene, a global hospitality company that designs and manages premium meeting, event, and flexible office spaces」と書かれている。自らをグローバルホスピタリティカンパニーと呼んでいるのがわかる。

コミュニティマネージャーが優れたシェフやコンシェルジュのように輝き、直接的な契約に基づかないコワーカー達の連帯、連携が偶発するようなコワーキングスペースの魅力が失われることは無いだろうが、まちづくりのような視点で場を構築していくアプローチも否定されるべきではない。他のどこにもないここだけの体験は期待できないが、良質な開発は少なくない成果を産むだろう。Flex Officeが当たり前の存在として認知されるようになることで、時代がまた一歩進んだ感じがしたのであった。

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