コロナ前と2021年10月現在では、街の見た目は結構変わった。
飲食店の閉店は目立つし、オフィスビルの出入りも少ない。空いている店の多くで空調は更新され、席の配置を変え、比較すれば安全な環境になっているように見える。古い建物では、コロナが去ることを祈るだけのように見えるところもある。でも、そのままもとに戻ることはないだろう。
ザイマックス総研の「ビルオーナーの実態調査 2021」を読むと、ビルオーナーは金持ちで安泰というイメージとは程遠く、古いビルの建て替えや改修は容易ではなく、将来に不安を持っている人が多いのがわかる。日本のコワーキングスペースは、2010年頃から動き始め、多くのスペースは古いビルの3F以上に入居している。企業のオフィスとして新たに借り手を見つけるのが難しいような物件が少なくない。ネットワークや共用物をシェアし、安くワークスペースを確保できるのはコワーカーにとっては好都合だから、多少古くても我慢する。スペースに入れば、外から見る姿とは比較にならないほど内装がモダンなところもあり、ビルの外見にこだわらなければコストパフォマンスは抜群に良い。コワーキングスペースオペレーターは不動産フレックス化の匂いをいち早く嗅ぎ取ったヴィジョナリーであり、今も生き残っている人はすごい人達ばかりだ。しかし、10年前に始めたスペースは10年経過するともともと古いビルがさらに10歳年老いている。いつまでも同じ状態ではいられない。一方で、WeWork的なモデルも成功したとは言えない。オフィスが美しいだけでは魅力にかけ、生活者との距離感がありすぎる。
ちなみに私が創業時に最初に契約したサービスオフィスは数年でビルが建て替えになり、移転登記を余儀なくされた。不動産と言いながらも、実際には、会社や人生のライフサイクルに比して同じ物件をそのまま使い続けることができるわけではない。変化は必須なのだ。流動性を意識して、計画を立てる以外の道はない。
コロナは大きなインパクトを与えているが、もう少し引いてみると1990年代に顕在化したインターネットの台頭が一世代を経て世界を変えてきた結果がでていると見るほうが現実に会うだろう。
オフィスのかたちは確実に変わる。ワークスペースの必要性はなくならないとすると、ワークスペースは自分の居住地に近づいていくだろう。逆に、居住地の流動性は高まるだろう(ワーケーションはライフスタイルに影響を与えるか?)。中古物件に住むのは当たり前になり、逆に耐用年数の長いフレックス物件がシェアオフィスのように台頭してくるに違いない。現在の地方都市でも、大都市の街でも、うまく流れに乗れるところと乗れないところが出るだろう。独身の間に10回以上街を変える人も増える。制度が整えば、国を超える人も増えるだろう。外国からも外国へも人は動き、戻る人は戻る。
居住地そばの街の不動産には古いビルが多いし、そのままでは上位企業のワークスペースの品質を満たせない。一方、自分の街に大手町のようなビルが建ってほしいと思う人は多くないだろう。少なくとも私は、低層マンションやアパート、一軒家が混在するような街のほうが歩いていて楽しいし、チェーンより街の独立系のレストランに魅力を感じる。高層マンションが嫌なわけでもないし、ビルに入ったきれいなレストランやバーも捨てがたい。でも、ニューヨークでも楽しいのは小さな店の方だった。流動性が高まると、仕事場の魅力と街の魅力は連動しなくなる。逆に言えば、仕事ができる環境を満たせる限り、街の魅力の引力は高まるはずだ。
きっと、都市計画を考えている人や建築設計に携わる方の中には新しいイメージが湧いている人もいるだろう。住居もオフィスもサービス化されフレックス化された未来。その未来のインフラとなる街は見た目も今とは違うものになるはずだ。
人口減少と経済的凋落の中にあって、インフラの作り直しは困難を伴うだろうが、生活を浮上させるためには、街のすがたが変わっていく必要があるだろう。しばらくは、分散型が優位になると思う。ザイマックス総研の調査レポートを読むと、これから時間が経過すれば経過するほど事態が厳しくなるように読める。変化を避けていると取り返しがつかないのではないかと思った。
コロナ禍でかつての常識の一部は壊れた。これから街も変わる。人とのつながりを、もう一度見直す時期が来た。