ファストドクターは、創業5年のベンチャーで、往診救急事業を基軸とする総合プラットホーム提供事業である。重要なのは、ファストドクター株式会社は「ファストドクターの管理・運営」を事業内容としているところで、決定的と思われるのはファストドクター非常勤医師募集にある11番目の以下の記述だと思う。
医師の勤務状況は外部に一切に出ません
安心して勤務頂くために、医師の情報が外部に出ることは一切ありません。
医師が勤務している常勤先や医局など、その他外部機関にファストドクターから連絡する事も一切ありません。
他の説明を含め、ジョブ型雇用を指向しているのが明確である。専属ドライバーをおくなど分業化を含め、診療システムをシステムとして確立しようとしているところが新しい。ただ、看護師などとチームとして息があっていなければ発揮できるパフォーマンスが高まらないだろうから、人間関係に関わる問題は尽きないだろう。だから、ファストドクターが本当に事業として成功できるかどうかは分からないが、独占的なプラットホームに育つ可能性はある。当然、ITの巧拙が成否に重大な影響を与える。
このプラットホームが機能すると、当然既存の医療機関は大学や研究機関、製薬会社にも影響を与えていくことになる。医療物流にも影響を与えるから、商社から見ても気になる存在となるだろう。伊藤忠商事が「新型コロナウイルス感染による自宅療養者向け食料支援について」で発表したようなプロモーションや出資に積極的なのも納得がいく。医療サービスのユーザーが自分からサービス拠点に通う形態から自分のいたい場所に留まった状態のままサービスが得られるような方向に向かうのは間違いないだろう。Amazon化、Uber Eats化と変わらない。特に感染症による自宅療養の場合は、物流の柱になるが、高齢者や障碍者も似たような状況になる。医療サービス単体よりはるかに巨大なマーケットとなるだろう。
もちろん、オンライン診療も進むだろうし、医療従事者のパフォーマンスも(恐らく匿名性は確保された状態で)可視化される。システムが一定のアルゴリズムでマッチングを行えば、合理的な競争が展開されるだろう。結果的に医療サービス水準も向上するはずだ。ファストドクターの成功で社会福祉が向上することを期待する。
今後、鍵となるのはカルテだろう。現在はカルテは医療機関が管理するもので、個人の情報資産ではない。医療サービスを受ける時には、必要と思われる自分の診療記録や計測データを開示する必要があって、同時にその個人情報は決して他の目的に流用されるべきではない。つまり、医療サービス提供者にストックされてはいけないもので、個人のコントロール下にあるべきだ。同時に、匿名化された統計情報としては、サービス向上に資する形で公開されるのが望ましい。
本来はマイナンバー(eID/PKI)が適切に機能し、個人情報が個人に帰属するプラットホーム≒デジタル・ガバメントインフラが実現されなければいけない。
デジタルの世界では、一度漏れた情報は、ほぼ永続的に漏れたままになってしまうから、現状に引きられずにいち早く安全なインフラに移行する必要がある。行政に必要以上の個人情報アクセス権を渡してはいけない。個人情報の制御権は本来基本的人権に位置づけられるべきだと思っている。この点は憲法を改正して盛り込んだら良いポイントだと思う。
ファストドクターのプラットホームが「医師の勤務状況は外部に一切に出ません」の約束を守れない事態は、守旧派と行政官が結託した時に起こり得る。医療行政は他産業と比較して透明性が低い。透明性が低いところには、どうしても汚職が起きる。