Drupal International Federation Initiativeはハードルは高いが挑戦する価値がある

Drupal AssociationのボードがDrupal International Federation設立を進めている。米NPOを分離して国際NPOを立ち上げ、現Drupal AssociationをDrupal International Federationの下で各国のLocal Drupal Associationと同格の存在にしようと考えている。極めて困難な活動だが、実現できればデジタル公共財としてのDrupalは飛躍的な進化を遂げるだろう。

以前Drupal Associationの決算書を読むという記事を書いた。Drupal Association(以下DA)のPL規模は5億円を超えていることに触れている。また、当時米Drupal Associationに学びつつ、国内でもLocal Drupal Associationを2024年に立ち上げられたら良いと書いている。しかしながら、現時点でもLocal Drupal Association(以下LDA)は立ち上がっていない。

現在、Drupal International Federation Initiativeという活動が進められている。現在のDAは米国のNPO法人なのだが、以下のLocal Association Webinars -  28 May 2025のプレゼンテーションのP6にあるように、Drupalのコードなどに対する貢献を行っている人の人数はヨーロッパが多くを占めている。一方で、DAへの金銭的貢献では、約75%が米国由来となっている。理由は明白で、Event sponsorshiptsとConference and training registrationsが収入の約40%(2024年度、以下同様)を占めていて、恐らくその大半が北米のDrupalConに起因すると思われるからだ。それを除いても過半は米国由来と思われるが、それはDAが米国のNPOだからと考えて良いだろう。・ちなみに、この比率は2023年度は51%で、コロナ後の変化もあり、イベントに依存したDAの運営の持続性に疑義が生じている(実際に$577Kの資産減少(赤字))と考えることもできる。

 

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実際には、DrupalConはヨーロッパでもアジア(2024年はシンガポール、2025年は奈良)でも行われているが、規模が小さいだけでなく、通貨も異なるので独自の運営がなされていて、一部ライセンス料をDAに収めている形態になっている。それを考慮すれば、世界規模でのDrupalコミュニティ活動は$4.7Mより大きいし、EUがサポートしているモジュールも少なくなく、Professionalサービス等でDrupalショップに支払われた成果(modules)がdrupal.orgに登録されていることになる。公平性に疑念が生じてもおかしなことではない。

Drupal International Federation Initiativeのアプローチの部分を機械翻訳すると以下のようになる

  • 世界中のDrupal組織に平等な発言権と法的地位を与え、
  • Drupalのようなグローバルなオープンソースプロジェクトをホストするために、単一の法制度への依存を避ける
  • Drupal.org、Drupal商標、DrupalConsなどのDrupalの資産を、透明で共有されたシステムを通じてより集合的に管理する。
  • 国際Drupal連盟を、世界中の慈善活動やコミュニティベースの資金調達の機会に有利な立場に置く。
  • Drupal のグローバル インフラストラクチャに中立的な法的拠点を提供します。

第一に述べられているように(米国に偏ることなく)平等な発言権と法的地位を与える必要が生まれていて、4番目にあるように(米国に依存せずに)寄付や助成金を集めやすくすることが望ましいという考え方に立つ。

EU諸国の視点で考えると、公共システムがFOSSとして実装されれば、各国ではライセンス料を払うことなく利用することができるようになる。その一方で、誰かがその費用を負担しなければいけない。また、バグ対応や機能拡張の要求を実現するためには費用だけでなく優先順位の調整などの問題もある。モジュールプロジェクトの品質、対応能力はそのプロジェクトに対するサポートの有無も大きな要素となる。技術者も霞を食って生きることはできないので、その技術者を雇用している企業が費用負担することは多いが、もし、その企業が自社企業のみを優先するような対応を行えば、安心してそのモジュールを利用することはできない。Drupalだと自分で手を入れて、組み込みこみを求めることもできるが、採用されるかどうかはわからない。権限はメンテナにある。それは素晴らしいことだが、限界もある。

drupal.orgのアカウント管理、権限管理にも公平性が担保されなければいけない。声の大きい人が勝つようでは困る。

Drupalは国連活動でDigital Public Goodと認識されているが、中長期的には商用製品と同等以上の品質や開発スピードを確保し、なおかつオープンであることが求められる。それを考えれば、Drupal International Federation Initiativeのアプローチは適切なものと言えるだろう。

実際に実現しようと思うととても難しい。現在のDAの支出はDrupalConsが$1.5M、Drupal.org Websiteが$1.9M、その他が$0.4M、管理費が$0.9Mとかなり大きい。Drupal.org Websiteの支出規模は日本円換算で2.9億円だから、日本の中堅Drupal Shopの1社分程度となる。もしDrupal International Federation(以下DIF)が引き受けるとすると、恐らく最初は米LDA、現Drupal Associationにアウトソースすることになるだろうが、オペレーションはともかくマネジメントはDIFに移すことになる。相当なマネジメント能力がなければできないことで、レベルの高いスタッフを雇わなければ実現できないだろう。

ちなみに、日本では2023年に岩国でDrupalCamp DENが開催されているが、100人強の規模で収入は100万円に満たない。日本円換算で5億を超えるDrupal Associationの規模と比較すると1%にもならない。ヨーロッパのコミュニティとの彼我の差は大きく、EUのような政府によるサポートもない。

しかし、日本からの貢献の期待は大きい。ラングエッジバリアがあることは誰もが知っているが、世界の中での日本の経済的な大きさ、技術力、政治の安定、誠実性は高く評価されていて、もっとDrupalが使われてよいはずだ、もっと日本からの貢献が出てよいはずだと考えている人は少なくない。

日本の有効なLDAが存在せず、特定のコミュニティのリーダーでもない私がDrupal International Federation Initiativeのメンバーに選ばれているのも、日本からの声を拾わずしてDIFを検討するのは適切ではないと考える人がいるからだ。

日本においても、Drupalが政府や公共機関であっても安心して利用可能なプラットホームとして採用されるためには、DIFにおいても十分なプレゼンスが得られ、国内的な問題解決ができ、同時に日本を代表してDrupalの進化の方向性についても影響を及ぼせるようになる必要があるだろう。実現には資金調達や持続的ビジネスモデルも必要だし、私一人が頑張っても解決できない課題ばかりだが、DIFおよび日本のLDAの機能化について微力を尽くしたいと考えている。

まずは、現状を説明できるようにして、ビジョンを共有できる人を増やしていく努力をしていくしかない。

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