プーチンの歴史認識─隠された意図を読み解く─

プーチンの歴史認識─隠された意図を読み解く─読了

荒っぽく言えば、過去に駐ロシア特命全権大使を勤めた著者がプーチンの内心を想像して解説している本ということになるだろう。「第一章 ロシアの成り立ち」の書き出しに「彼(プーチン)にとって歴史は政治の道具そのものである」と書かれていて、タッカー・カールソンのインタビュー時に道具としての歴史を使った話が書かれている。読者にロシア史、世界史の知識をほとんど求めず、事前知識がなくても読みやすく読めるようにロシアの歴史が書かれており、プーチンの解釈と著者の解釈がそれぞれ書かれているので面白い。「第二章 正教の受け入れと歴史上の役割」で正教の国教化の経緯が書かれていて、無論プーチンや著者の視点での解説ではあるが、私はプーチンも国教化を進めた人たちも、信仰心よりも宗教を道具として使う意識の方が上回っていると思う。予断になるが、過去の武将や現在の右派政治家も天皇の歴史を信じてはいないだろう。それを上手く使って権力を強化することが重要なのだと思う。内心のことは誰にも分からないが、歴史の武器化は世の東西を問わずどこにでも見られるものだ。理由があって複数の国教化候補があったなかから正教が選ばれてたらしいことは初めて知ったし、過去の歴史を学ぶことでその使い方も学ぶことができることにも納得感がある。「はじめに」の部分で「プーチンは「専制君主」で世論などに関心を向けないと考える向きがあるが、正しくない。彼は世論に多大な関心を払うが、ただし民主的なのではなく、その世論を自分で操作できると考えている。」とある。世論操作に自信をもっていて相当な能力を持っているというのは事実だと思うし、その時に歴史解釈あるいは正史を武器として使う。史実に基づくとボロが出るから、当然歴史改ざんを行って(美しい日本が存在したかのような幻想を叫ぶものと同様に)美しい過去を描く。そういう人物としてプーチンを見る見方はわかりやすい。

「第三章 ロシアの領土の拡大」では、征服の歴史が書かれている。北方の話では、 現エストニアのナルバの戦いも出てくる。古戦場を見に行ったこともある。私のエストニアの知り合いの多くはロシア嫌いでナチス・ドイツの評価が意外なほど高い。ロシアを退けてくれるなら、ナチス・ドイツの極悪性を知りながらも、ロシアより遥かにマシと考えている。タリンからそれほど遠くない軍港の街パルディスキに行くと、ピョートル大帝の爪痕が残っている。タリンにはソ連時代のアパートも残っている。ソ連が残したものは、負の遺産だけではなく、何とか生きていける環境を整えていた面もある。自由は失われるが、最低限の保障が与えられたように感じた人もいるし、シベリアに送られて命を失った人も多く記録されている。天秤にかければ悪夢の時代という話になるのだろう。南方、黒海の話も興味深い。

最後の「第四章 ロシアの動乱の歴史から導かれた統治の基本理念」はプーチンの内心を描き出している章で、引っ込みがつかなくなっているところがあっても、彼は正しいことをやっているという思いを持っている、あるは自分こそがロシアでもっとも正しいことができるという自信を持っているらしいことが感じられる。過去の歴史を振り返れば、大きすぎる権力を持てばやがて破綻するから、やがて終わりの日は来るだろう。ただ、その与える被害が壊滅的にならないようにと願わざるをえない。

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