Drupal Association 2025 Audit and Financial Overviewが公開された(記事のGoogle訳は十分に機能する)。正式な開示文書は2025 audit report。
暫定CEOのTiffany Farrissの記事である。彼女はDrupal Association(以下DA)の会計担当で、視点は財務寄りとなっているが、冷静でかつDrupal愛に満ちたものになっていると思う。
注目すべきポイントは、DAの赤字額は前年より減少した一方で、現預金は約1.5億円と、運営費の2.3ヶ月に減少してしまった点だと思う。企業なら運転資金が3ヶ月を割ると危険と考えるのは自然だ。
2025年度は、2022年に策定した中期計画(Drupal Association Strategic Plan 2023-2025)の最終年度に当たるので、その計画に対する実績が出たことになる。収入は約3.8Mドル(6億円強)から約4.5Mドル(7億円強)に伸びているので中計の施策は収入増に貢献できたということになる。もちろん、投資を伴うから経費も増え、結果として451Kドル(7千万円強)の赤字となっている。当期正味財産増減額比率(企業の指標に対応させると売上高利益率ROSに相当)は-10.0%、純資産の約37%。荒っぽく言えば、この状態が3年続くと債務超過になる。現預金が切れなければ破綻はしないので、3年でピンチというわけではないが、経営に関わる人にとっては冷や汗が出る数字であるのは間違いない。会計担当役員としては、事態をきちんとボードメンバーと共有しなければならないし、NPOだからDAの関係者に適切に開示しなければならない。
Drupal Association(DrupalCon, Inc.)は、思い切って捨象すればDrupalConの運営に契約主体である法人格と銀行口座が必要だったから米国で設立されたNPOである。各国のコミュニティでもDrupalCamp等の運営を行うために法人を立てたり、いずれかの企業がバックアップ法人として契約業務や銀行口座(預り金勘定)を引き受けてきた。実際に業務を遂行するのは無給のボランティアが中心で人件費がかからず安いコストで大きな仕事が達成できる長所があるものの、言葉を選ばずに言えば無給のボランティアは自分のやりたいことしかやらないし、多くはその活動を維持するのは誰か他の人の仕事と考えてしまう。DrupalであればDriesが何とかしてくれるだろうというのが本音に近いのではないか。しかし、法人を立てれば(立てるまでもなく)、FOSSとFOSSコミュニティの維持に金が必要なのはすぐわかる。DAはボランティアの人件費を含まない状態で4.9Mドル(内管理費0.7Mドル、約14%)を必要としている。その結果、多くのLocal法人(以下LDA)は存続できなかったし、バックアップ法人もそのコストを負担し続けることは難しい。DAでもDAのインフラを支えている企業から悲鳴が出ているのが現実だ。もちろん、Drupalプロジェクトに貢献することはその企業の評判を高めることにつながり、売上・利益への貢献も期待できるが、その利得と負担コストが見合うかどうかは全体状況に依存する。重要メンバーや重要企業がプロジェクトから出ていってしまえば、打撃は極めて大きい。DriesのAcquiaも善戦しているが順風満帆とは言えない。オバマからトランプに変わったことで吹いた逆風は途中でバイデンに変わっても風向きは変わらず今も止んでいない。泣き言を言ってもしょうがないので、自分たちでなんとかするしか無いのだ。
日本でもLDAJ準備委員会が半年かけて立ち上げ検討を続けているが、かつてのDrupalCon, Inc.のようにDrupalCamp Japanの収益に頼って法人を運営することは無理である。DAの中計も参考になるが、Drupalが日本市場で受け入れられるようになり、個別企業だけではまかないきれない投資や経費を負担できるような財務体制を確立できなければ仮に立ち上げに成功したとしても持続性はない。もちろん、大元のDAが機能しなければLDAJも機能することはなく、常識的に考えてLDAJは日本の事だけを考えているわけにはいかず、DAの活動資金についても応分の負担が必要になる。同時に、DAもLDAJもボランティアの人達が気持ちよく活動できるような環境を整え、Drupalで商売をしている企業が成長できるような施策を機能させなければいけない。デジタル公共財として国連関連団体から認定を受けるなどの活動はその一例となろう。
ちなみにDAの中期計画ではInnovation Working Groupを編成して「Drupal を世界で最も革新的かつ影響力のあるウェブプラットフォームにするための戦略を策定し、優先順位を付け、Drupal 協会のスタッフがこれらの戦略を実施する際に監視し、助言する。」と書かれている。LDAJはこの文の世界を日本に書き変えDrupal協会をLDAJと書き換えたものを含む活動を行うのが筋だろう。ある大学では、Drupalの利用について国(文科省?)から承認を得る時に、大手SIerの取り組みが見られないとか疑義が提示され、結果的には認められたものの苦労したと聞く。「革新的かつ影響力のある」は日本では「行政や大企業であっても信頼して依存可能な」をクリアする必要があるだろう。日本でもDrupal関連サービスプロバイダーにはあまり知られていないが大手SIerも含まれている。昨年の日本のデジタル赤字は6.7兆円とされており、信頼できるFOSSに切り替えることができれば、その分のライセンス料は支払い不要になる。その分FOSSのサービスプロバイダーに支払う原資は増えるし、サービスプロバイダーの収入も増える。
AIのインパクトは大きいが、多くはショートカットの力だ。ぱっとコストをかけずにWebサイトやシステムが作れるからすごいという話なのだが、長期で見れば保守、サービス維持の方が重要になる。もちろん、ぱっとやれることは大事だし、DrupalでもAIを上手く使うことで生産性を著しく向上させられる活動領域は少なくないが、ずっと頼りにできるサービスをデジタル公共財の上に構築していくのは意義あることだろう。その本質的な価値を守っていくために知恵を出し続けなければいけないし、一定の貢献も必要となる。
LDAJ設立3年後に日本でDrupalに関わる人達が、半信半疑だったけど結果的にLDAJが設立されたことで(自分、自社を含めて)世の中が良くなったと多くの人や法人が思う日を迎えたいものだ。