日経新聞2025年8月4日に『日本の財政、要警戒か楽観か』という記事が出ていた。そこに「モルガン・スタンレーMUFG証券によると、日本の一般政府の財政収支(資金過不足)の赤字が2025年1~3月期にほぼ完全に解消され、財政が過去約30年で最も良好な状況にあるということだ」という記述があって考えさせられた。
今回の参院選で議論になった減税か給付かという話があったが、税収の上振れ分を給付で使うのが適切というのが自民党の主張だったが、そういう主張ができるという背景には財政が良好な状況にあるということにあると考えて良いだろう。減税してしまうと、財政が悪化するので一時的な税収を還元する方が適切という議論はありだろう。
社会保障の今後を考えれば、財政は悪化の方向に動くの必定だから、増税の方向に向かないのはおかしい。今暮らしが苦しいから助けてくれという悲鳴は政治を動かすが、給付しても8割は貯蓄に向かってしまうということであれば、あまり意味がない。
また「債務圧縮のため、第一に目指すべきはデフレ脱却だと安倍氏は常に政策で明確にした。所得の上昇が物価上昇に追いつかないうちは評価されないが、財政の改善はその政策の正当性を示すものだ。」とも書かれている。私は、この考え方を支持する。
このデフレなのだが、ドル建てで考える必要があると思っている。
円ドル相場の推移は、世界経済のネタ帳のページでUSドル/円の為替レートの推移(1980~2025年)を見ることができる。バブル崩壊のあたりの1990年は144.8円、失われた20年を経た2010年は87.8円で円の価値は1.65倍になっている。つまり、デフレ傾向にあったとしてもグローバルに見れば、ドル建てで見ればこの倍率分だけ価格は上がり、給与も上がっていたことになる。
第二次安倍政権の頃から、円安傾向になり、2020年から15年を経て147円程度になっている。つまり、2010年比で約0.6倍に円の価値は低下した。物価や賃金の伸びが1.6倍で横ばい。円建てで年率成長率が3.5%ないといけない。2023年、2024年が4.9、3.7(名目)。2008年から2009年は-4.1%、-3.6%で円高基調の時には厳しい数字となっているが、ドル建てで見れば実は凹んでいない。これまでの政策が製造業、輸出産業に有利なように動いていることと推定することもできる(現実はそんなに単純だとは思わないが、政治家も官僚も既存大企業を向いていると思う)。政治は数が効くから、まとまった票が取れるところに目が行くのは避けられないが、守りに入った国がジリ貧になるのは容易に想像がつく。
もう一点「新規事業の立ち上げや硬直化した雇用保護策の見直し、あるいは投資資金の借り入れに向けて踏み出す環境が整っている。」という指摘が興味深い。暴君トランプをやり過ごすために蓄えを使わないわけにはいかないが、実際にやるべきことは、暴君トランプが嫌っていることをやればほぼ正解となるだろう。
環境問題やDEIの推進が未来を拓く。財政が良好なのであれば、バラマキではなく未来に向けた投資をすべきだ。また、イノベーションが必要なのだから、大企業増税をして、人材流動性を高める必要があると思う。国際的研究機関を立ち上げて、主にアメリカであぶれた研究者と日本でポテンシャルがありながら機会が得られていない人材を発掘するのが良いだろう。特に高齢化社会で発生する社会問題解決に資する研究に期待したい。
もし、この記事にあるように今が転機として適切なのであれば、この機を逃してはならないと思う。挑戦者が活躍しやすい制度が必要になる。どうせ安定は望めないのだから、セーフティネットを確保しつつ、雇用流動性を高める方向に舵を切るしかないだろう。政界再編も避けられないと思う。ちょっとワクワクする。