中居正広氏引退に考える

BBCが元SMAP中居正広氏、芸能活動引退を発表 昨年末に性的スキャンダル報道という記事を発表している。

中居正広氏が実際に何をやったのかはわからないが、多額の示談金が動いたのは事実だろうから、問題行動があったと考えなければいけない。より大きなお金が動いているのはフジテレビで、ガバナンスが効いていないのではないかと疑われている。日枝氏の名前に繰り返し言及されているのが印象的だ。

画像

フジテレビにはコンプライアンス推進室が設置されていて、もしその組織が機能しているのであれば、今回の事案に対する情報も扱われているはずだろう。その責任者は今どう考えているのだろうか。情報が上がってきたとき、どう考えただろうか。普通に考えれば出世コースとは思えないので、事件が起きないでくれればありがたいと思っていたかもしれない。

社長は業績に責任を持つので、コンプライアンスより売上、利益に注力するのは自然。もちろん、現代ではコンプライアンス違反は企業存続に影響するほどの大きなリスクがあるので、意識していないはずはない。だから、中居氏の事案が上がってきたときは、かんべんしてくれ、というのが本音だろう。人気タレントが面倒を起こせば、業績影響は必至。同時に、人気タレントの遵法性疑惑は依頼側のフジテレビの契約継続は大きなリスク事項となる。示談が成立したことにホッとしたと想像する。法的には解決している。ただし、示談が成立していても、人権方針で許容できるものかどうかは別問題である。それでも、ドル箱は失いたくない。港 浩一社長は、窮地に立たされて何とか現状維持の道を探ったと言え、一定のレベルでやるべき施策を打ち、それを定例会見の前倒しという形で発表した。その行動は、理解できるし、良くやっていると捉えても良いと思う。しかし、そのリスク評価は世間の支持を得られなかった。経営判断を行うものは、その経営判断に責任を負わなければいけない。運が悪かったと思うが、どうにもならない。

コンプライアンスは、動く目標である。時代とともに変化する。例えば、男性、女性以外の性を認めないというのは、時代や科学的検証で揺らぐ。中居氏は、「これで、あらゆる責任を果たしたとは 全く思っておりません。今後も、様々な問題、調査に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応して参ります。全責任は私個⼈にあります。これだけたくさんの⽅々にご迷惑をおかけし、損失を被らせてしまったことに申し訳ない思いでなりません」と書いている。彼も世間の評価を見誤った。示談の成立は事業継続を可能とする必要条件だが、世間の支持を得られる十分条件ではない。十分条件であるかのような発言をしたことで、自らの将来を失うことになった。緩みがあったのは間違いないが、自分の緩みを自覚するのはとても難しいことだ。

もう一つ感じるのは、社会的制裁の厳罰化傾向である。人間、誰でも誤りは犯す。寛容さを失うと、社会はその人がもつ社会貢献力を奪う。やっちゃいけないことはやっちゃいけないが、やっちゃいかないことばかりではない。不適切な行動は厳しく注意されて然るべきだが、不適切な行動を行った人を排除することで封印するのは適切だとは思わない。そういう動きをすると、逆に勝てば官軍的な動きも助長することになる。不適切な行為は止めるべきだが、人を裁いてはいけないということだろう。

企業統治の観点で言えば、会社法や情報公開に関するガイドラインの成熟は重要だと思う。コンプライアンス推進室のような内部監査・統制組織は世間の目に対応して設置が当たり前になった。多くの企業では設置が常識になっているが、形だけの場合もある。監査役会も形式的な設置を望む経営者もいる。中には、名前貸しで何もしなくても報酬がもらえるなら喜んで受ける人もいる。ただ、引き受ければリスクがある。運悪く事件が起きれば責任が問われることになる。

フジテレビで日枝氏の名前が出てくるのは、ある意味優れた独裁者としてフジテレビを強くした実績があるからだろう。ぐいぐい引っ張るタイプで、人事権を行使して統治するタイプのリーダーは時に大きな成果を上げるが永続性はない。持続性を高めるには制度化を進めるしか無い。同時に、世間の目などの社会的な環境に適合して、どんどん制度を変え続けなければいけない。継続性を担保しつつも、既存ルールの絶対視は進化を遅らせる。活きたマネジメントプロセスの埋め込みこそが解だろう。

私は、中居氏は芸能界に復帰する日があって良いと思う。しばらくはNPO活動をしたら良いのではないだろうか。

フジテレビには、ぜひ存続していただきたいと思う。この危機は、再生のチャンスでもある。フジサンケイグループはFOX的な匂いがして大嫌いだが、世の中にはいろいろな考え方の人がいる。適切なマネジメントで、事実を尊重しつつ、保守的な人が支持できるような報道機関であれば、消えてなくなるよりは遥かに良い。他の報道機関も競争相手ではあっても、共通の守るべきルールを引き上げつつ、競争相手が不当に排除されることが無いように動いて欲しいと思う。社長は、競争に勝ってなんぼだが、会社経営はそれだけでは足りない。取締役会レベル、あるいは委員会レベルで、業界の健全な成長に寄与する高潔さがなければ持続性はない。ダルトン・インベストメンツが意見しているが、ガバナンス評判は資金調達に影響を与える時代になっている。専門家(ファンド)を信頼した投資が増えているから、ファンドから高い評価を得ることが成長投資を行えるか否かを左右する時代になったと言える。日頃の準備が必要で、信頼は長い時間をかけて構築し、確立した信頼は間違えると一瞬で失われる。

これから、まだまだ荒れるだろうが、この事件は今一度報道機関の本質を問うことになる。健全な進歩につながることを期待したい。

feedback
こちらに記入いただいた内容は執筆者のみに送られます。内容によっては、執筆者からメールにて連絡させていただきます。

コメント