ユダヤ人の歴史

ユダヤ人の歴史を読了した。最近手に取った本の中では最も気づきの多かった本で、強くお奨めしたい。

ユダヤ人の、世界中にまたがって繰り広げられてきた広範な歴史を、簡潔に理解するための入門書。各時代の有力なユダヤ人社会を体系的に見通し、その変容を追う。多数の図版と年譜、索引、コラム付き


上記河出文庫の書籍サマリーは的を射ていると思う。400ページ弱で4000年弱の歴史を簡潔に記載できていて、ユダヤ人とは何者か、どうユダヤ人以外と関わってきたかが分かる。キリスト教、あるいはキリスト教国の負の側面もあぶり出しているし、ユダヤ人がなぜ嫌悪されてきたのかも仮説が立てられるようになる。私はイスラエルはテロリスト国家認定され、やがて独立を失うことになるだろうと考えているが、そうならない道があれば良いと願っている。

本書を手に取った理由は色々あるが、タリンのパブで、ベラルーシはヨーロッパだという主張の看板の写真を見せた時に、そこに出てくる名前はみなユダヤ人だと言われたのが大きい。

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もう一つ、コワーキング関連の知り合いのロシアの人が、イスラエルに渡って改名したのが気になっていたのもある。彼は、ウクライナ侵攻を信じられないと言っていたが、今は、イスラエルで従軍するとFBに書いている。私には、見た目でユダヤ人を認識することはできないし、名前で想像することもできない。コーケージアンという(今では根拠がないと言われている)人種名があって、カナンの地に住んでいたユダヤ人がコーカサス人であるわけがないという疑問もある。また、クリスチャンを自認していることもあり、ユダヤ人とは何者かということについても興味がある。

本書を読んでみて、私のユダヤ人像は大きく変わった。ユダヤ人と言うと富裕層が想起されるが、2013年の時点では、貧困率ではOECD34カ国中最悪の20.9%、2022年ではコスタリカ、米国、イスラエルの順だった。ちなみに日本は悪い方から数えて8番目で、アイスランド比3倍。トランプの誕生は米国の貧困率の高さが大きく影響しているのだろう。やや話がそれたが、イスラエルは今でも格差の大きな国であり、光を浴びる富裕層とは別に苦しい暮らしをしている人がかなりの数を占めている。

ユダヤ人は奴隷だったエジプトから脱出してカナンの地、エルサレムに王国を築いた。その後も大国に滅ぼされたりして、本格的な独立を得られていた時期は、とても短いことに本書から気付かされる。また、流浪の民でありながら、ユダヤ人のネットワークが機能していたこともわかり、全体としてみると猛烈に貧しい中で、そのネットワークと一部の才能があって上手に立ち回ることができた人が、富と権力を手にできた理由もほの見えてくる。国土がないから、どこかに寄生しなければ生きていけない。逆に国土がないから国家としての脅威はない。軍事的な脅威はなく、商社的な機能を果たしやすいところに目をつけた権力者に重用されて伸びてきた。一方で、用無しになると悲惨に切り捨てられてきた。ホロコーストの話でも触れられているが、多くの貧しいユダヤ人は食うや食わずの人生のなか、権力者に立ち向かう気力もなかったというのは現実だろう。

貧困が民を凶暴化させる可能性が大きいのは歴史が証明している。改めて自国第一主義の台頭を止めなければさらなる血が流れ続けることになると思わされたのであった。

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