タリンの旧市街は古い建造物が美しい。観光資源として有効という側面もあるだろうが、見てくれだけではなくちゃんと補修しようという意思が感じられる。歴史的建造物に関しては説明書きが提示されていることが多い。しかも、実用されるように保護されている印象がある。
通りの写真を取ると、左奥とか、前方奥方向には割とデザインは合わせつつも今の建物に見えるものがある一方、手前右側の建物は、かなり城壁の質感にマッチした作りになっている。
冒頭の写真は、城壁の低い部分を修復しているもので、多分昔は中が通路になっていたのだろう。石組みをほどいて必要な補強を行って、上を歩く人の危険がないように補修しているように見える。Aruna Ehitusという会社が請け負っているようで、Webページのポートフォリオを見ると、塔の修復にも携わった経験がある一方で、一般建築物を旧市街にマッチする形でリノベーションしたり新築したりする技術もあるようだ。
日本でも古民家再生や、それを活かしたまちづくりを目指すケースもあるが、ヨーロッパの街のような統一感のある街は思いつかない。多数の民族が地続き、あるいは海賊的勢力の影響を受け、至る所に防護壁の痕跡が残っている。一般市民を街の外に置くような城もあれば、街を取り囲むような城壁や防衛施設を設けている内に、そういう街ができたのだろう。
その街の形に愛着を持つ人がいて、現代でも一定の割合で、政治や行政を担っているから、便利一辺倒の方向に動かない。アメリカや日本は、どちらかといえば、古いものは壊して新しくすれば良いじゃんという価値観が勝っているのだろう。多分、そのせいでファサードという言葉がピンとこない体になってしまっているのではないかと思う。
タリンの街に繰り返し長居するようになって4年目。例えば、旧市街のてっぺんのパットクリ展望台から降りてくる階段は、去年は階段の石が割れていたり手すりが頼りにならないような場所もあったけれど、今は違和感のない形で安全に整備されている。良く気にすれば、城壁の階段感が失われたと思う変更もあるけれど、安全とのバランスを考えればこんなものだろうと納得できる範囲である。
新たな建物は、完全に現代的な新しさのものもあれば、新たに建てているのに旧市街との連続感を感じさせるものもある。
EUからの予算でインフラが整備され、保存すべきものを保存することができている側面もある。いつまでも三丁目の夕日状態は続かないとは思うが、良い感じで経済も伸び、歴史も残るように見えるのはとても気持ちが良い。
ウクライナが今後どう変わっていくのか、バルカンの国々がどうなっていくのか、それぞれの特徴を保持しながら、平均的市民の生活が均等化していく方向に動いていってほしいと願っている。