FOSSもCommonsも支えている人がいて成り立っている - 理解編

2016年のやや古い記事だが、Linuxはなんで持続的に無償で使えているのかという疑問に答えている記事がある。

Linuxってどうやって稼いでいるの?Linuxファウンデーションのまとめ。

Linuxの場合は、高品質なOSが無料になれば、ハードウェアが売りやすくなるから、日本でも富士通や日立などがLinuxファウンデーションに加盟している。トヨタも出資している。

法人としてのThe Linux Foundationは、501(c)6でCategory: Community Improvement, Capacity Building / Promotion of Businessとなっている。一方、Drupal AssociationはDrupalcon Incが法人名称で501(c)3、カテゴリーはEducation N.E.C.(恐らくnot elsewhere classified)となっている。どちらもNPOである。収入は$177Mと$3.5Mと50倍程度違う。とは言え、$177Mでも260億円程度なので、NTTデータグループの年商の100分の1程度。Oracleの純利益の1割にも満たない。Googleの研究開発費の約200分の1。金の力という観点では極めて小さな存在と言える。ちなみにApache Software Foundationは501(c)3で$1.77MとDrupal Associationの半分の規模だが、立派に機能しているように見える。

Annual Report 2023(日本語版)のLinux Foundationボードメンバー(9枚目)を見ると、ルネサス、富士通、日立、パナソニック、NECからのメンバーが並んでいて、インテル、Huawei、Tencent、Meta、Microsoft、Samsung、Oracleも入っている。最終的な受益者は一般ユーザーだが、Linuxを自分たちの商売の一部に組み込んで、利用しているメーカーがスポンサーとなっている。一社でできないような力が発揮できる仕組みができているということだ。

少しずつ共通プラットホームが成長し、品質も上がれば特にニューカマーには嬉しい環境変化となる。一方で、各社が独自拡張として提供している部分がカーネルに実装されれば、メーカーは機能重複に何らかの形で対応しなければいけないから、不利益を被ることがある。ある種、先行者不利益も生まれるのである。

ファウンデーションに対して別の見方をすると、ユーザーと技術開発の間に立つ中間業者が製品販売でFOSSであるLinuxの維持拡張に必要な金を集めて、ファウンデーションに上納している構図となる。もちろん、実際に脳と手を使って開発している開発者が仕事をしなければ何も生まれない。いくら金を積んでも引き受け手がいなければどうにもならないが、なんとか食えるなら、FOSSの仕事をしたいと考える人は少なくない。活動しやすい環境をどう作るかは、FOSSプロジェクトの将来に大きく影響する。

Drupalの場合は、製品はCMSなので、汎用性の高いOSのレイヤと比べると利用者数(企業や団体あるいは個人)は少ない。もちろん最終受益者はそのサービス利用者なので、相当な人数になるが、彼らにとってはDrupalは見えない存在でしか無い。Drupalの利用者にとって、CMSとしてのDrupalは無償で使える公共財となる。では、その維持拡張の原資は誰が負担すれば良いのだろうか。Drupalプロジェクトに共感する個人の寄付やボランティア行為で支えるというのが第一段階で、小さなチームの場合は、それで十分成り立つ。CMSとしてのDrupalはcoreとcontribution moduleからなっていて、それぞれに対して、プロジェクトがある。プロジェクトにはリーダー(メンテナ)がいて、機能拡張の提案をしたり、バグ修正案や拡張コードの提案を行うボランティアがつく。メンテナにお金を払うスポンサーがいるプロジェクトもあれば、プロジェクトに組織的なサポートを行う企業がついているプロジェクトもある。例えば、Commerce CoreというModuleのプロジェクトにはCentarroという会社がついているが、CentarroはDrupal Commerceを利用したプロフェッショナルサービスを売りにしている。しかし、ModuleそのものはFOSSでCentarroと契約しなくても誰でも自由に使うことができるし、バグ修正や機能拡張の提案を行うこともできる。ただ、リソースの配分はお金を払ってくれるCentarroの客が優先されるであるうことが想像される。Commerce機能はお金を扱うクリティカルな機能だから、サポートが欲しくなるが、ユーザーはCentarroに依存してしまうリスクを評価しないわけにはいかない。Commerceプロジェクトと、それで商売する組織は分離していて欲しいと思う人は少なくないだろう。それで商売する企業が複数あって競争して良いサービスを提供するほうが望ましいし、同時にCommerceプロジェクトで汗をかいている人が、その汗に見合う収入が得られるのが望ましい。利用企業が直接Commerceプロジェクトのスポンサーの一つになっていくという手はあるが、どうも地獄の沙汰も金次第といった印象は拭えない。そのあたりがすっきりしないと潜在力に対して利用者が伸びないという話になりかねない。しかし、開発者も霞を食って生きていくことはできないし、開発者を雇用している企業もその活動を何らかの利益に結びつけることができなければ存続していくことはできない。Linuxの場合は、いわば、Centarroのような会社(DrupalShop)がファウンデーションの会員となって、資金の供給源となりつつ、複数のファウンデーション会員がさまざまな協議を行って落とし所を決めていると考えれば良いだろう。十分な会員数と公平なプロセス、優れた働き手がうまく協力することで機能する。

日本のDrupalという世界で見ると、ようやくそれなりの規模のプロフェッショナルサービスビジネスが動くようになってきた段階で、Module/Themeプロジェクトのメンテナはほとんどいないし、DrupalShopの儲けも小さい。当然、日本で日本語話者にとって有益なDrupal Association機能を支えるお金は容易に集まらないだろう。これまでは、何社かの企業が自腹を切ってDrupalプロジェクトを盛り上げる活動をしてきたが、利用者が増えてDrupalShopやDrupal技術者(インハウスを含む)が儲かるようにならなければ持続性はない。牧歌的な話だけではすまない。

協会の法人化を行った時に、そこが覇権争いの場所になってしまったら最悪である。Drupalプロジェクトへの参加者(ここでは、MeetupやCampなどに参加している人を指す)はコミュニティが機能して、相互に成長しあえる環境を求めている。私は、組織設計は極めて重要だと思っているが、組織設計を頑張ったからと言ってDrupalプロジェクトへの参加者の賛同を得られるわけではない。実利(楽しいCampの開催)と持続性のバランスが重要なのだろう。

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