Drupal Commerceの創始者がDrupal Associationの理事になっていた

hagi に投稿

2023年8月31日付のTheWeeklyDropUbercart to Drupal Commerce and the Birth of Centarro: Interview with Ryan Szrama という記事が掲載されていた。Drupal Commerceは何度かトライアルしてみたことがあるが、私にとっては易しいモジュール群ではない。しかし、使いこなしているユーザー企業は確かに存在している。コマースアプリケーションは、業務特性もあって発表は少ないし、商売の特性によって必要な機能も様々なので経験を積まなければ良いアプリケーションを作り上げていくことはできない。様々な、すぐ始められます的なサービスは生まれては消えてきたが、Drupal Commerceは消えずに長年続いている。

引用した記事は、一文中の語数が多めなこともあり、自動翻訳では意味が通じない。もちろん、原語で読んでも読解は易しくない。背景知識も求められる。ただ、最初の斜め読みで、これは真面目に読む価値のある文書だ思ったので、頑張って読んでみた。

インタビューのはじめは、Ryan氏のDrupalとの付き合いについて聞くものだったが、本筋はDrupal Commerceの歴史だ。神学校の卒業後に冷凍会社に就職し、上司にプログラミング能力を認められて彼のオンライン販売の仕事を任されたことに始まると書かれている。DrupalはSEOに強かったので、オンライン販売もDrupalでできたら良いということで、Ubercartを作ったとのこと。ここですごいのは、上司が、Drupalcon Barcelona 2007での発表を応援したところだ。Ryan氏は、ここで同好の士に出会いネットワーク形成が始まってContributionを続け始めるようになったと言う。素晴らしい話だ。

やがて、彼はCommerce Guysを最初は3人で初めて、やがて成長していく。Drupal Commerceが誕生し、オンラインコマースのための小さな部品からオンラインコマースビジネスプロセスを支えるフレームワークに変わった。

彼がラッキーだったのは、黎明期のオンライン販売のビジネス側からスタートしたことだろう。しかも、Drupalがその会社で使われていた。技術としてのDrupalの優位性に接することができ、ビジネスとしてのオンライン販売の現実的な課題を多く解決しなければいけなかったところにある。税の扱い、顧客アカウント管理、在庫管理や出荷管理などちょっと考えただけでもカバーしなければいけない領域は広い。相当な苦労がなかったわけがない。その苦労から、カバー可能なフレームワークを作り上げたのがDrupal Commerceということになる。

チェックアウトはクレジットカード決済や次々と生まれてくる金融サービスに対応しなければいけない。エンドユーザーが望む決済手段に対応できない商売は死ぬ。ビジネス側のニーズは各社で異なるから、プロフェッショナルサービスは不可欠だ。サイトとしてリリースされれば、急なオーダーのスパイクも捌けなければいけないし、脆弱性対応も必要になる。インフラ構築から、アプリケーション開発保守、コンテンツ管理、サイト運営まで支えなければいけない。

Commerce Guysは、やがてインフラ系のPlatform.shCentarroに分岐し、彼は戦線拡大より自分の強みに集中する選択をする。なるべく組織の過度な膨張を避けながら、フレームワークの厚みを加え、上得意を相手にしたプロフェッショナルサービスで課題解決で収益を得た。この選択を日本の生きがいと結びつけて説明しているのは興味深い。

改めて、DrupalConでコミュニティ活動に参加して、Contributionをやるぞというスイッチが入ったことの偉大さを感じさせられる。ただ、上得意向けのプロフェッショナルサービスで稼ぐだけにせず、エッセンス部分をContributionし続けているさまには頭が下がる。CentaroのAddress Moduleは、私も国際学会サイトの構築時にお世話になったが、全てを完璧に処理することなどできはしないが、日本の住所であれ、アメリカの住所であれ、各国ご対応を含めて上手に対応してくれる。

この記事を読んでいると、FOSSの魅力が伝わってくる。

後半は、Drupal Associationとの関わり、彼がDrupal Associationがどうあるべきかと考えるかに焦点が当てられている。

印象的なのは、DAのメンバーの考えの多様性を尊重するあまり十分なリーダーシップが取れていないのが残念で、リーダーシップを発揮するために技術者を雇用すべきだという考え方だ。実際、重要なコア貢献者の多くはAcquiaや数社のビッグプレーヤーに雇用されていて、私は我田引水的な行動が見られるとは思っていないが、同時に彼らが、自社誘導を忌避することで、踏み込みが足りなくなっているのではないかと感じることがある。公平性の確保メカニズムの実現は容易ではないが、Ryan氏の考えには一理ある。彼のビジネスは、Drupal中心ではなく、顧客充足中心であり、ある意味で、Drupal関連ビジネスの良い意味での辺境部に位置しているから彼の立場だと自由な発言がしやすい。

DAはCEOの交代もあって新たな時代を迎えつつあり、この記事を読んだ感想としては、きっとRyan氏も良い方向への変化に貢献してくれそうだと思う。解くべき課題を有していて、その解を探してコミュニティに寄ってくる人が増えるようになれば活性化するだろう。

日本国内にはまだDAが認めるLocal Drupal Associationは存在しない。国内コミュニティでのContributionはほぼ完全に無償のボランティアワークになっていて、Ryan氏のように所属組織を超えたネットワークが人生を変えるようなケースも私は知らない。別に米欧でも企業による囲い込みが無いわけではないが、DrupalConでのスプリントなどネットワーキング機会は確実に影響を及ぼしている。共通のアプリケーションドメインへの問題意識を持った人に出会えるチャンスもある程度はある。国内でも何とかそういう環境が整うために、何をしなければいけないのか、多くの人と話をしたいと思うのである。

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