記憶は定かではないのだが、最初にCityGMLの話を聞いたのは2016年頃だったような記憶がある。前職での取引先にビールの会社と信託銀行、コンビニがあって、GISとの接点は、販促への応用、顧客訪問管理、出店管理という分野で話題となったことがある。
例えば、料飲店の把握をしようと思うと、ビルの何階にあるのか、大きさはどうなのかという事が関心事になるし、もちろん売上の傾向とか、顧客の傾向だって問題となる。ビルによっては中何階といった区画もあるし、同一店舗でも複数階にまたがるケースもある。LoDの話を学びながら、現実との結びつけが難しそうだと感じていた。
PLATEAUは、国土交通省が主導する3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化プロジェクト。CityGMLを基盤としている。今どき、もうXMLじゃないだろうとと思わないでもないが、スキーマが明確化できる長所はあるだろう。国内の全ての軽造物がモデル化され、モデルが活用される未来を目指しているように見える。完成すれば、「3D都市モデルは来るべきSociety5.0の基盤になるだろう」は現実になるかもしれない。一方、例えば、谷根千のあたりを散歩して空き地を見ると、この空き地の前は何が建っていたのだろうかと気になることがあるし、立派な桜の木が無くなっているのに気がつくと、いつ切られたのだろうと気になることもある。例えば、ちょっと見慣れない蝶が飛んでいると、この蝶はどの草木で幼虫の時期を過ごしたのだろうとか、この鳥の巣はどこにあるのだろう、どのあたりが行動範囲になるのだろうと思ったりもする。国交省だと、なんとなく固定資産税を確実に把握するとか、太陽電池の接地面積や想定容量を計算するといったシーンが頭に浮かんでくる。料飲店の話ではないが、地面の面積と境界の把握から、空間の体積と境界の把握に変わっていくのは必然的な進化だし、実際空中権、容積率移転のルールは既にある。3D都市モデルとは何かを考え始めるとちょっと考えただけでも無茶苦茶奥が深いことは分かる。長年、地図や地理空間情報に関わってきた人だって、分かっていることは限られるし、一人の人が理解できる範囲は大きくはない。
水道、ガスのパイプを把握したい人はいるし、道路だって保守に関わる人は、部材の歴史や現状品質を管理したいと思うだろう。特定の利用目的を有する人にとっては、3D都市モデルは精度が足りないと感じるはずだ。それでも、リファレンスとして利用可能な3D都市モデルの価値はある。地図がある場所とない場所では考えられることが大きく違うように、3D都市モデルが整備されている場所と未整備な場所では施策立案の可能性は大きく変わる。
Google Map前後で、私にとっては社会は大きく変わった。外国でもバスに乗るようになったし、訪問先をかなり丁寧に調べるようになった。例えば、エストニアで1ヶ月過ごそうと思えば、ワークスペースはどうなっているのか、どんな価格帯のどんな宿があるのか、スーパーや飲食店はどうなのかなどをMapと組み合わせて調べる。今自分がいるところからの時間距離や、将来そこに行ったとしてそこから行こうかと思う場所との時間距離も調べる。限られた時間の中でできることは劇的に変わった。
移動に関わるニーズは大きかったので、Google Mapは上手くやったと言えるだろう。Google Mapに依存している人が増えれば、そこから得られる情報は大きい。無償サービスの裏側には、その情報の価値をマネタイズする商魂がある。GISのアプリケーションで付加価値を産んでいるケースは少なくないが、まあ大儲け感を見たことはない。モニタリングニーズなどニーズはあるから地理空間情報アプリケーションには継続的なニーズはあるが、まだブレークしている感じはない。そろそろ臨界点を迎えると見る向きも、そうとは思わないと言う人もいる。
ドローン宅配便あたりは、割と近々来そうなアプリケーションだと思う。住所問題が話題になっているが、情報システム的に扱いにくくてもほぼ郵便物や宅配便は届く。しかし、無人機に任せたければ情報システム対応は避けられない。今の住所体系とは異なる3D配送アドレスが定義される必要があるのではないかと思うし、上手に計画できれば、高層ビルにドローンが蝿のようにたかりつつ安全性が保たれるような未来はそう遠くない時期に来るだろう。地物あるいはシステム上のエンティティの3D対応が肝ではないかと思う。あまり、今の住所体系に引っ張られないほうが良さそうに思う。
人間にとっても、行きたいところを今の住所で考える習慣から変わっていくのではないだろうか。
PLATEAUを航空管制的な視点で見直したらどうなるのかな?と思ったのであった。
ちなみに、私自身も今この瞬間の空間専有を3Dポリゴンと時間で記述できる。身につけている服も、別のエンティティとして受動的に移動(変化)している。デジタルツインは、そういうエンティティをデジタル情報として扱えるようなインフラの上で実現する。PLATEAUは、今のままでは恐らくその基盤になれないが、その活動の中で足りない本質的なものに気がつける可能性があるだろう。個人的には、夜明けは近いのではないかと思っている。分野の専門家ではないが、挑戦する人の助けになるようなことがしたい。
PLATEAUのLearningのページはとても充実していて、専門研究者でも分野エキスパートでない私にとっても理解可能なコンテンツが揃っている。私はDrupalを含むCMS(地物、イベント管理視点)から地理空間情報を見ているので、ポリゴンにテクスチャが属性として記載される構造化には抵抗感がある。ポリゴンが壁の表面であれば、エンティティは壁の方で、ポリゴン+Tを属性として見るほうが理解しやすい。描画・投影は人間がエンティティを理解する上でとても重要な技術なのだが、時々、地図に熱心な人、地理空間情報に携わる人は、描画・投影に引きずられているような気がすることがある。一方、その技術がなければHCIが機能しない。
二兎を追っている。情報学的に考えると、本質はエンティティ(とその識別子)とは何かという問いにかかっていると思う。
蛇足だが、私はサイバーパンク的な印象のあるページは好きじゃない。もっと身近なサイトであってほしい。