DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni のセッション紹介

今回のDrupalCamp DENでは、プログラム管理を担当していたので、全ての動画に目を通していた。コンテンツが公開されたので、所感を共有する。この記事は、あくまで個人的な感想でDrupalCamp DENの運営を担当したものの公式な声明でないことを注記しておきたい。

セッション紹介

特別セッション:Rebirth of OIST 10 years old website with Drupal 9(OISTで10年間運用されていたサイトがDrupal 9でリニューアル) 日本語字幕あり (事例)

OISTのページをD7からD9に移行するとともにリニューアルした発表と、D9での多言語対応から得た学びが紹介されています。単純な移行ではなく、画像などをメディアに変換するなど、D9のアーキテクチャに沿った変換が行われているなど丁寧な仕事が感じられるプレゼンテーションです。後半の英中日韓で触れられているソート問題は多くのサイトで悩みになっているもので、可能な限り(読みフィールドに頼ること無く)ユーザー満足を得ようとしている取り組みは見ごたえがあります。

A1:国際農研Webサイトの構築と運用 (事例)

職員177名とはとても思えない充実した研究機関のサイトの構築・運営に関わる発表で、外部機関の助けは借りつつも他人任せにせずに自分たちで回し切るという高い志が感じられます。この発表を見てからサイトを見直したら「地球規模の困難な問題の解決」のためにDrupalサイトが貢献できていることに喜びを感じました。

A2:国際学会サイトの事例紹介 (事例)

自分の発表なのでコメントは控えます。Drupalならノーコードでも結構できるよ、という事をDrupalを知らない方、初心者に伝えたいと思って発表しました。

A3:Drupalを始めるあなたへ、豊田支部発刊書籍の紹介 (その他)

2020年12月23日にKindle版も発売された「Drupal9 Web開発をはじめる薄い本」から始まるDrupal Meetup 豊田支部の発行書籍7冊(正味4冊)の紹介。各目次から内容を紹介しています。もともと同人誌なので興味のあることを書いているという印象はあるけれど、インフラやリリース管理に関わることに関心のある人、最新技術に関心のある人、応用分野の拡大に関心のある人などそれぞれの興味がにじみ出てきて興味深い。

ちなみに、私は共著者の一人です。

A4:日本企業でも取り組める、新しいDrupalコミュニティへの貢献のカタチ 〜Group, Subgroupモジュール開発におけるANNAIの取り組み〜 (その他、コンテンツ公開可否確認中)

日本のDrupal企業の草分けAnnaiさん、太田垣さんならではの発表です。歴史の厚みが感じられるだけではなく、新しい貢献手段を模索されているのが必見です。世界では行政がスポンサーしている活動もたくさんあり、企業の方にも自治体の方にもぜひ見ていただきたい内容です。

ちなみに、Groupモジュールは萩原も多用させていただいているもので、Annaiさんの貢献に支えられていることに感謝します。わずかながらですが、萩原もネパールの友人にも協力してもらいながらGroup Node Permission Administration of Asian Languageで問題解決に貢献させていただいています。

A5:千葉日報のDrupal活用事例 (事例)

2011年にDrupal6から挑戦している千葉日報の発表は大注目。利用モジュールの紹介もあり、実サイトを見ながらどう使われているか想像してみるのも一興です。D9への移行のみならずPWA対応など今も継続的に挑戦されています。短めのビデオなので、もっと見たく聞きたくなるような発表です。

A6:Drupalモジュール紹介 100本ノック (技術)

たった20分で100本のモジュールを紹介するという野心的なセッション。Coreに同梱されているものだけでなく、ちょっとマニアックで新しいコントリビューションモジュールも含まれていて、サイトビルダーを目指すことを決意した初心者はもちろん、ベテランの人も自分の知識のアップデートに有効です。構成管理系や運用管理系の機能は村田さんのプロ経験がにじみ出てきているように感じました。Drupal中級者以上の人は必見です。100本ノックに打ち負かされてしまうことでしょう。

交流会でも大きく話題になったセッションで、今回Campでスライド枚数が最多でした。

B1:より速いデプロイを求めてチームで取り組む開発者体験の向上 (技術、開発プロセス関連、サービス紹介)

開発から本番までのワークフローとそれを支える技術の紹介。Acquiaも日本人技術者が増えてきていて、Acquia Cloudの利用のハードルが下がってきているのがよく分かる。仕組みを理解している人と母国語で話せるのはありがたい。Drupal利用企業のシステム部の方には特に視聴を推薦します。

B2:DrupalとFastly!~究極の柔軟性と高速性を手に入れよう~ (技術、運用、サービス紹介)

Webサイトを立ち上げた組織は、やがてどうやったら安定的に高速なサービスが提供できるかが課題となってきます。FastlyはCDNマーケットシェアではCloudflareに及びませんが、ガートナーの調査でも満足度で勝っている優れたサービスです。Webでサービスを提供しようとする企業はインフラレッド社の提案に耳を傾ける価値があると思います。

B3:W3CSSテーマを利用したシンプルなディストリビューション SQbase (技術、サイト構築)

企業や個人が自力でDrupalサイトを立ち上げられるように支援してきている白根さんならではの取り組みの紹介。日本語で問い合わせ可能なオープンソースディストリビューションはSQbaseのみかも知れません。同社サイトhttps://sqt.jp/でDrupal講習コンテンツも無料公開されています。イベントを頻繁に立ち上げるような組織などをサポートするDrupal企業、フリーランスの方、あるいは自力で立ち上げられるようになりたい企業の方に本セッションの視聴とsqt.jpへの登録をお奨めします。

B4:エンジニア向けノードのアクセス制限方法まとめ (技術、サイト構築、開発)

エンジニア向けとありますが、前半部分はサイトビルダーにとって貴重な情報に溢れています。ビギナーにとっては、Coreモジュールだけで満たせない要件をモジュール導入で解決できる可能性があることが理解できます。後半は、コードを触ることで高度な制御ができることを改めて検証するなどしてわかりやすく説明していて参考になります。エンジニア、上級者だけでなく、ビギナーのサイトビルダーにもお薦めできる良質なプレゼンテーションです。

交流会では、このセッションを絶賛する声を多数耳にしました。

B5:Drupal × Tailwind CSS (技術、開発)

Tailwind CSSを未経験のDrupal技術者には貴重な情報が得られると思います。必ずしも肯定的ではありませんが、考察は筋が通っているので今後の事を考えるのに大いに参考になると思います。

参加者のTweetを引用します。

 
B6:Drupal Initiativesから読み取る Drupal 10以降の未来 (その他)

Drupalの進化がどう計画されてどう進められてきたかを振り返ることのできる貴重なプレゼンテーション。22分の発表板以外にも41分のロングバージョンがありますが、その長さを超える価値があるので必見です。

C1:Drupalで進化させる社内ポータルの作り方と事例 (技術)

Drupalの外部連携機能の豊富さとパーソナライゼーション能力の高さを簡潔に紹介するわかりやすい発表。社内ポータルは外から見られないので、事例紹介は貴重です。

C2:MAとSFAそしてCMSとの連携について (サービス紹介)

Drupal、Mautic、Salesforceの統合方式の紹介。Drupalログインには、Salesforceの認証を用いて、Salesforceを中心にしているのは現実的な選択と感じられました。リードプロセスはMauticを使っていて、Mautic側でDrupalから拾う口と、Salesforceにデータ投入するインタフェースを定義して全体をつないで、最終的には表から見える入力はDrupalに集約できることがわかります。事前にある程度、CRMやマーケティングオートメーションの知識(参考リンク:https://www.marketingautomationinsider.com/salesforce-vs-mautic/)がないと少しむずかしいかも知れませんが、実用性の高い提案になっています。

C3:Drupalにおける検索エンジンSolrの活用 (技術)

Solrを中心にContentservとの連携を含め、Drupalのインテグレーション能力の高さをデモを含めて解説しています。Drupalの商業システム応用可能性の高さを感じさせる発表。PIMと検索機能の充実したCMSの統合は注目される分野でもありそのイメージを掴む上でも参考になります。

C4:オーストラリアのDrupal事情 (その他)

オーストラリアでのDrupalの活用状況を現地のビジネストレンドを含めてわかり易く紹介して下さっています。マーケット面、Drupal事業者だけでなく、コミュニティの状況にも言及していて参考になります。若い人は、ワーキングホリデーを念頭に置いて聞くのもありかも知れません。

C5:Introducing Augmentor module (英語セッション) (技術、開発)

ディープ・ラーニングのGPT-3サービスをCkeditor4に接続して、コンテンツ作成のリッチ化を謀るDrupalモジュールの作者による紹介。リリースしたてで、まだモジュール利用者は少ないが、興味深い取り組み。

C6:No-code API integrations with ECA and HTTP Client Manager (英語セッション) (技術、サイト構築)

ECAモジュールとHTTP Client Managerを用いたノーコードインテグレーションの可能性を紹介するセッション。Starwars APIを利用したデモが含まれています。サイトビルダーができることが今後どんどん増えそうな期待を感じさせるもの。技術的なバックグラウンドゼロだとやや難解かも知れませんが、それでもDrupalの可能性を知るころができる素敵なプレゼンテーションです。

個人的には、ECAには大注目しており、大変参考になりました。

事前収録:Development of a unified Drupal website platform across Estonian educational institutions. エストニアの教育機関向けの包括的なWebプラットホーム開発 (事例)

エストニアの有力Drupal企業からの寄稿発表。Drupalのマルチサイト機能を使って高校等のサイトの共通インフラを構築したプロジェクトの流れを紹介しています。

この発表は、2019年に萩原がDrupalCamp Balticsに日本のコミュニティ活動を紹介するセッション登壇を行った縁もあり、寄稿をお願いしたものです。プレゼンテーションはFigmaを使って作成されていて、発表までのプロセスが堅くて実際にコンテンツがいただけたのは会の直前で、結構苦労が多かったものです。ぜひ、多くの人に視聴していただき、コメントや質問をお寄せいただければ幸いです。

事前収録:Drupal書籍作成の裏話 (その他)

A3で発表された同人誌作成を技術面、マネジメント面で推進した丸山さんの経験談。Kindle出版にも応用できる内容で、一度もリアルで一同に会すること無く書籍が作れることを説明しています。企業や行政を含む組織で、このスキルを持っている人を育成できれば、広報力アップが期待できるでしょう。倍速で見れば10分以内で触りがわかるのはお得です。

おわりに

改めて振り返ってみると、今回の21本の発表はDrupalコミュニティの資産となる立派なものだと感じられます。今回は全てのセッションを事前収録にして、会場でパブリックビューイングを行いつつ、オンラインYoutube放送を同時に実施することで、オンライン参加者にもご満足いただけるようにメタ・インフォの技術者が尽力してくださいました。多くの方の支えで素晴らしい1日を過ごせたと感謝しています。

あくまで個人的な感想ですが、私はDrupalCampサイトはログイン制にして数日前には登録者が事前にコンテンツを見て、Webform等を用いて、事前に質問事項やコメントを登壇者、プログラム管理者に送っておき、当日はそのフィードバックも参考にインタラクティブな時間を持てるのが望ましいと思います。また、そういった質疑応答の記録もまたコンテンツの一部だと思っていて、それを含めて、DrupalCamp、Drupalコミュニティの歴史として蓄積できるようになる日が来ることを望んでいます。

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