GPS、時刻、CRSは何度調べても難解だ

USGIF Newsletterを長らく購読している。普段は、読み飛ばすだけなのだが、NGA’s Stardust will modernize Earth models for GPS, mappingという記事に目が止まって調べ始めたらはまってしまった。この記事で、WGS84の話に触れられている。GPS受信機がこのモデルに従って現在の緯度経度を計算しているのだと思うが、WGS84はEPSG:3857を指すと思っていたのだが、WGS84も細かく改定されていて、2021年にはWGS 84 (G2139)に改定されていて、今後も改定が行われるらしい。どのモデルを採用するかによって、得られる緯度経度は変わる。もちろん、時刻が正確でなければ位置を特定することはできないし、地球の自転はブレるので、衛星の位置から特定したある場所の座標が1年前に特定した座標と一致するわけではない。

WikipediaのGPSは相当平易に書かれているとは思うが、それでもなおとても難解だ。衛星の時刻は原子時計から算出されるので、その場所においては正確に時を刻むが、地上との位置関係で見ると高速に移動しているので、地上時間から見ると早く時を刻むことになる。そのため、地上の時間と一致させるために遅らせて、発信信号にGPS時刻を埋め込んでいる。ただ、1980年のUTCが基準となっていて閏秒調整がなされていないから18秒ほど現在のUTCとずれている。ここでまたUTCって何だというのが気になると、単純に世界時といっても簡単ではないことがわかる。委細はともかく特定の場所で日周運動の観測を行って時刻を合わせても相対値も変わるし場所によってずれがでる。それを補正して計算したUT1がいわば体感としての正しい時間と言ってよいが、UT1と原子時計の進みが一致しない。UTCはUT1と食い違いを1秒未満にするために閏秒を入れて調整しているが、コンピュータから見るととても厄介だ。しかし、厄介だからといって原子時計を正としてしまうと、ある時刻に太陽や星が見える位置がやがてずれていく。大体、原子時計を正としたとしても、衛星の時間と地上の時間がずれてしまうように、精度を高めていくと同時という意味も相対的になってしまう。

地図上の座標とGPS計測による座標は一致しないのは当たり前だ。地図上の座標はある時点で、あるモデルで対象となる場所に座標を与える。緯度、経度、高度は地球レベルの座標系で、特定の国が勝手に数値を固定することはできない。GPSで決定する座標は全球をカバーするので、それに合わせていくのは合理的だけれど、日本に限らずプレート活動で地面の位置はリアルタイムでGPSから導いた座標だと日々動いてしまう。大きな地震でも無い限り、最寄り駅と自宅との位置関係は変わらないから、体感的にはずっとそれぞれの緯度経度が変わらないし、逆にころころと緯度経度が変わってしまうと具合が悪い。この話は、時刻のUT0とUT1の話とも近しくて、見ている範囲が狭ければUT0の方が、UT1より現実にあっている。一日あたりの差異が3ms程度なので、ミクロな現実より同じ言葉を利用することのメリットを優先してUT1を許容していると言って良い。

国家座標は、その国にとっての座標系を固定してしまうという考え方と言える。日本の場合は、今も日本経緯度原点等の位置は変わらないという制度となっている。現実的な判断と思う。しかし、リアルタイムでGPS計測した座標とは一致しなくなるのは当然である。それを補完する意味で導入されたのが元期だ。1997年を元期として固定したが、東日本大震災の影響を受けたところは測地成果2011の基準日を元期とする改定で、その元期の座標を固定した。今後も大きな変動があれば国家座標は改定されるだろう。日本の人にとっては、それはとても合理的な判断なのだが、全球を見ている人からするとそれは現実とずれて見える。もちろん世界中で同じ問題があり、住所と(法的な)座標のマッピングは一定期間固定化しないわけにはいかない。陸続きだと、地図がつながらない可能性も出る。国から出ない人はつながっていなくても実害はないが、動く人にとっては不都合となる。

一方で、Google Maps等で利用するGPS座標はそのモデルに沿って得られる値である。それ自身は事実上自然現象の計測だから、その瞬間の現実を示す。だとすると、もし地図が国家座標に基づいて作成されていたとしたら、現在の値を国家座標に変換してやらないと法的に正しい値にならない。日本では、国土地理院が定常時地殻変動補正サイト POS2JGDというサービスを提供していて、単純な時間経過によるズレだけでなく地殻変動を含めたズレの補正ができるようにしている。Google Mapsがこのパラメータを利用しているかどうかはわからないが何か手を打たなければ計測値と地図上の位置を一致させることはできない。

WGS84の改定を行って、モデルがGPS機器に搭載されれば、より精度の高い位置情報を取得できるようになるのかも知れない。過去の例を見ると、オリジナルのWGS84は緯度85度までしかカバーしていないが、WGS 84 (G2139)では緯度の制限はない。

時刻と場所の関係はとても難しいが、例えばミサイルで考えた場合は、国家座標よりリアルタイムのGPS座標のほうが重要視されるのは当然だろう。今の標的がどこにあるのかが問題だからだ。情報システムから見れば、閏秒が入るようなUTCよりGPS時刻の方が役に立つ。確実に頼りになる方の情報を使う。一方で、人間は比較すると荒い精度でしか現実を把握できないし、荒い精度だから抽象的に物事を捉えることができる。例えば、2階を人間が理解するのは容易だが、コーディング可能な形で2階を定義するのは極めて困難だ。同時に、2人の人間が真剣にどこからが2階かという議論を始めると理解が一致していないことは簡単に明らかになる。でも、日常生活ではその荒い精度で問題は起きない。それでも、法的な判断が求められるような問題は精度を上げないといけない。国家座標もそういう側面を持つが、そういった決め事はどうしてもリアルタイムの現実との差異が生じてしまう。

Google Mapsアプリは人間が使うことを想定して作られている。だから、人間の感覚にあった結果を出さないと使ってもらえない。自動運転の場合は、そのシステムの目標を満たすシステムを実現しないといけない。UT0とUT1の話もそうだが、一つのベースモデルで全てを解決しようとするのは現実に合わないと思う。それでも共通言語を持たなければ連携できないから、ベースモデルはローカルモデルとの連携容易性の高いものにしていく改善が避けられないのだろうと思う。

蛇足だが、自転のずれがどうして起きるのかとか、撹乱要因を追求していくと際限なく沼は深そうな気がする。

書いていて、まだまだもやもやしているところは残っているが、とりあえず区切りをつけて公開しておくことにした。

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