DrupalConプラハで、エストニアのDXを推進したTaavi Kotka氏の講演があった。リアルタイムでもオンライ視聴したので振り返って紹介したい。冒頭のスライドは日本政府も参考にしているエストニア政府の指針だ。
まず、DXを進めるにはインターネットアクセスが十分でなければいけない。日本は問題ないだろう。
ついで、一意の国民識別子がなければいけない。これは日本ではマイナンバーとなり、日本でも問題ない。
3つ目が有名なonce onlyポリシーと、それを支える機密性の高い情報共有インフラの必要性だ。日本は残念ながら縦割りで行政が同じことを何度も何度も聞く。何かを登録しようとする度に住所や生年月日を書かされるのは誰でも体験しているだろう。省庁間のデータ連携もほとんどできていないし、機密性も低い。ただ、デジタル庁はこの3番目の方針の重要性を十分認識しているから、乗り越えていける可能性はあるだろう。
4番目のデータの所有権とプライバシー問題は極めて重要で、政治の介入、法制化が必須の部分だ。日本は全く対応できていない。与党自民党が自分たちをお上と勘違いしているので、本来国民一人ひとりに属するべきデータの所有権を政府が持っている勘違いしている。ここは最低最悪と言えよう。
5番目以降は4番目までをある程度クリアしないと議論もできないものだ。
ここまでは、私にとっては常識だったのだが、その後に発表された取組状況の話はとても参考になった。
エストニアも、そう簡単にDXを進められたわけではない。eIDの発行は、ほぼマイナンバーカードの発行数を意味する。結構頑張っているのだが、ほぼ100%になった2019年までに17年を要している。そう簡単にはいかない。また、eIDの利用は半数を超えているとは言え、まだ100%にはなっていない。私は、マイナンバーカードの普及率を高めるためには、4番目のデータの所有権とプライバシー問題が解決される必要があると思う。だから、日本はこのままの政治体制やマイナンバー法制では失敗するだろう。政府にお上意識を捨ててもらわなければどうにもならない。
エストニアの苦悩もそう簡単なものではなかった。頑張ってeID(マイナンバーカード)を配布したのだが、最初は全然使われていない。私が最初に訪問した2014年はまだ半数に達していなかったし、日本でデジタル先進国と喧伝されていたが、実際に訪問したらかすかに時代が動きつつある気配程度しか感じられなかった。ただ、私がe-residentになった2018年には既に十分な利用が進んでおり、昨年2021年にタリンに滞在して感じたのは、高齢者もDXの恩恵を感じているのが明らかなことだった。
官僚も政治家も忍耐力がいる。まず、マイナンバー関連法案を改定しなければ日本の将来は暗い。
ちなみにエストニアのID≒マイナンバーには目に見える形で生年月日が埋め込まれている。私は気にしないが、生年月日がバレるのを嫌う人はいるだろう。そういう意味では日本のマイナンバーはよりセキュアだと思う。だからこそ、マイナンバーを無理に隠す理由は本当はないのだ。住所や生年月日へのアクセスを保護できれば、誰もが使えるIDになる。民間の電子署名サービスの乱立はナンセンスだと思っている。標準は決めた上で、互換サービスのサービス競争をさせた方が現実的だ。