リクルートワークス研究所の集まる意味を問いなおす ーリアル/リモートの二項対立を超えてーを読んだ。発行は7月なので少し時間が経ってしまったが紙の書籍が届いたので手にとったら素晴らしい内容だった。
最初の『第1部「集まる」の現在地』は場所がキーワードになっているように見えるが、最初の『やはり起きていた行動のサイロ化』のチャートの「目的が設定された会議」や「目的以外の会話が期待できる場」はABWのアクティビティに相当する内容で、場所ではなくシーンに注目していて、テレワーク時代で対面でもリモートでも実施されるようになっている。ここに、ランチや飲み会といった項目が挙げられているのも興味深い。
テレワーク協会のサードワークプレース研究部会の提言とも関連するが、私生活と業務がいかに密接に関連しているかが垣間見える整理となっている。「意思決定・合意形成のための会議」が増えていることを考えると、おそらく従来よりバーバルより文書化される傾向が強まっているのだろう。リモートだとOn the same pageの重要性が高まるから当然といえば当然。多分、瞬発力は落ちるが、一定の期間で見れば効率化を高められているケースもあると思われる。積極的に取り組んだ組織と、コロナ禍がすぎるのを首をすくめて待っている企業の間の差が明らかになりかけているのだと思う。
「企業カルチャーの危機」でコミュニケーションの質が全体で低下したのが29%、向上したのが8%となっているのは、時代の変化のスピードを考えるとかなり肯定的に読んで良いと思う。電子メールが普及し始めたころも、対面じゃなくちゃだめだという声は多かったが、やがて対面の方が具合が良いことと、メールの方が良いことを使い分けるようになり、ベストミックスを探るようになっていった。ようやくリモートワークでも、ベストミックスを探る段階に入ったのだろう。制約が緩和されたら効率は一旦落ちるが、やがて動きが変わってくる。コロナ禍で集まることができなくなったことでコロナ禍後の制約が緩和された新しい社会が見えてしまったということでもあるのだと思う。5年もすると、過去との比較よりあるべき姿の議論に向かっているに違いない。
私は、企業はやがて小さくなると考えている。コングロマリットディスカウントという言葉があるが、どんな業界でも拡大期がすぎれば、その巨大さが企業を蝕むようになる。ICT技術の向上で時差の問題はあるものの世界中のどこにいても協力して何かを成し遂げることが容易になり、プロジェクト化、本格的な複業化は必ず進む。もちろん、全てが変わるわけではないが、寄れば大樹の陰という幻想、あるいは頼れる期間はどんどん短くなる。「組織文化が集まる意味を変える」で規制文化、集団文化、競争文化、革新文化で風土を整理していてそれを集まることと関連して考えさせているのは示唆に富む。単なるイメージだが、創業当初はほぼ間違いなく革新文化が風土となり、やがて規則文化に近づいていって企業は消えていくのだと考えている。GEは競争文化に向かっていって輝きを失い、日本の一流企業の多くは集団文化に向かっていって現実には柔軟性を失ってあえいでいる。元気な企業というのは社員の質で決まるというのは幻想だと思う。例えば、実際にハイパフォーマーは存在するけれど、ハイパフォーマーが組織で注目されるということは、既に革新文化の時代が曲がり角に立っているということだろう。だから悪いというわけではないが、私は若さが失われつつあると考えてしまう。
私がコワーキングスペースに惹かれる理由の一つは、不安定なところにある。企業のオフィスにいると見られない景色がそこにはあるのだ。明らかにリアルの魅力に溢れている。リアル・リモートの二項対立など意味がないのは明らかで、本書はそれに様々な定量情報と考察でヒントを与えてくれる。
企業のワークスタイル、個人のライフスタイルを考える前に一読することをお奨めする。
※冒頭の画像は、『集まる意味を問いなおす ーリアル/リモートの二項対立を超えてー』ページから引用させていただきました。