個人から考えるABW(メモ)

ABW再考

そもそものABWはオフィスデザイン戦略から始まった。自分の席あるいは部屋と会議室以外は視野に入ってはいなかったのである。きれいなトイレとか、女性の更衣室とか、給湯室とかは欧州でも付け足しのものと考えられていた。そういう時代にやる仕事によって、働き手が場所を選ぶというコンセプトは画期的だった。1970年代にアメリカで発想されたと言われているが、書籍としてまとめられたのは2014年のことだからまだ8年しか経過していない。Leesman社は2010年創業で従業員満足度調査に21のActivityを利用したアセスメントプログラムを開発した慧眼の持ち主で、私はこれまでABWのActivity分類にこの21の項目を利用してきたし、テレワーク協会の研究会でもその利用を推奨してきた。

しかしLeesmanのActivity定義は在宅やサードワークプレースを検討する際に使うとどうもうまくいかないのである。

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なぜうまくいかない気がするかを改めて考えてみたら、そのActivity分類は優れたオフィスデザインを導くための分類であることに気がついた。オフィスデザインの理想を目指すと、どのようなレイアウトにすると働きやすいかが問題となる。フリーアドレスとか、ブース席、個室、静粛ルームや会議室、交流スペースなどをどう配置すれば良いか、BGMや明るさ、どのようなデスクや椅子を準備するかも問題となる。そして、オフィスを魅力的な場所にするには、オフィスで行う業務アクティビティに適した場所を作れば良い。だから、個人作業、共同作業、公式会議、会話、その他に5分類し、個人作業をデスクで行う集中作業、デスク外で行う集中作業ほかに小分類している。つまり、自席と集中ブースなどのレイアウト要素がActivityに織り込まれている。気がついてみれば当たり前のことなのだが、分析軸に基づいたActivity分類がなされているのだ。

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Leesmanのすごさは、そういうActivity分類を導入しながらも、モビリティ属性にも注目している点にもある。

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モビリティ属性把握の目的は、業務全体の中で、どの程度の割合でオフィスが使われるかを掴むところにある。オフィスにずっといる従業員に好まれるオフィスと、出ずっぱりの従業員に好まれるオフィスは違うから、その属性が良いオフィスを作る情報源になる。例えば、個人作業はデスクでやるかデスク外でやるか、集中作業かやっつけ仕事かなどが分類の基準になるが、それはどのようなオフィス設計をすればよいかを導くための情報になるからである。

サードワークプレース時代のABW

一方で、オフィスにこだわらずに業務アクティビティを考えると全く意味が変わってくる。

個人作業は、集中作業か否かが問題ではなく、アウトプットを伴うアクティビティか調査・仕入れ的なアクティビティかで分類するほうが合理的だろう。あるいは、個人作業の入力情報、出力情報のセキュリティ条件に注目すべきかもしれない。

読むActivityは公開資料の読み込みと個人情報に関わる情報分析では個人作業というアクティビティであっても考慮すべきことは大きく異る。

サブアクティビティが類別できれば、それに基づいて、特定の場所(オフィス)でないとできない作業か、どこででもできる作業か、一定のセキュリティ条件を満たす必要がある作業かを特定できるだろう。オフィス、コワーキングスペース、セキュアスペース(在宅含む)、オープンスペースがサブ属性となるだろう。

共同作業も同じだろう。例えば、Gitを使った共同作業は、会議を除けばむしろ個人作業に分類したほうが良い。

会話、その他はままで良さそうだ。

個人視点でのABW

一方、個人、生活者の視点で見ると変わってくる。

睡眠、食事、家事、育児、介護、健康維持、学習、趣味、移動程度でまとめて良いのではないか。例えば私の平均的な平日Activityをその6分類で書くと以下のようになる。

  1. 睡眠 8時間
  2. 食事 2時間
  3. 家事・育児・介護 2時間
  4. 業務 5時間
  5. 学習・趣味 4時間
  6. 移動・健康維持 3時間

ここから考えると、企業から見たABWはこの業務5時間から最大の成果を引き出すことが問題となる。例えば、週5日25時間をどういうワークセッティングで引き出すか、移動などのロス時間を抑制するためになにが適切なのかが問題となる。もちろん、どれだけ業務時間を従業員から安価に獲得することも課題となるが、それが表に出てしまえばブラック企業フラグが立ってしまうから、折り合える場所を探す以外の道はない。

副業の時代に個人視点で捉えると、業務時間は特定の企業に捧げられる時間ではない。4:1になるかもしれないし、5時間を無理やり7時間に伸ばそうと思うかもしれない。学習・趣味は自分の生産性や付加価値、あえて言えば、自分の市場価値をどう上げるかに直結するアクティビティとなるから、ここに力を入れなければ持続性や環境適応性が損なわれることになる。今後生涯学習は必須のものとなり、Activity小分類では企業教育、公的教育、私的教育、自責研究などが適切となるかもしれない。

所感

ユビキタスライフスタイル研究所と命名して創業したが、約10年を経てやっと自分が何をやろうとしていたのかが、ちょっと分かってきたような気がする。

この記事は単なる気付きの備忘録だが、おそらくこの延長線上にABW2があり、収益化のチャンスも待っているだろう。今はベンチャー投資の冬の時代だが、もし今がその時であれば冬かどうかに関わらず始める必要がある。

今風に言えば、チムドンドンだ。