帰国の要件に「COVID-19に関する検査証明」の提出が必要だ。今回、在エストニア日本大使館から教えていただいて、CONFIDO Medical CentreでPCR検査を受け、「COVID-19に関する検査証明」を書いていただいた。前回SYNLABでPCR検査を受けた時に心配だったのでこれで帰国できるかと問い合わせたら、11月29日にそれではだめでCONFIDOなら日本向けの検査証明も出してくれるからそこで受けることを推奨すると返信があったからである。感謝している。
もともと3週間の予定だったので、急ぐ必要はなかったのだが、念の為に一度受けておこうと考えて早速11月30日にCONFIDOで受診した。ちょうど、29日のこちらの朝に「外国人の新規入国を原則停止 政府、オミクロン型に対応」記事が出て要注意だと思ったのも理由である。証明書の発行は、街から徒歩だと20分強あるく場所になるらしいこともあって予行演習をしておこうと思ったのも理由だ。検査自身は、SYNLABと同じ施設で、違いは鼻で取るタイプのもの。SYNLABも同じオプションはあるが、CONFIDOのサイトには旅行者向けの証明を出すのが目的の検査と明記されている。価格は45ユーロと54ユーロで9ユーロ差だから1,200円程度CONFIDOの方が高い。
今日、日本向けの「COVID-19に関する検査証明」を見て驚いたのは、事前にメールで通知された結果を手書きで日本のフォーマットに書き写して、医師の署名が入ってスタンプが押されていたものだった。さらに同封されるものを見ると検査自身を行っているのはSYNLABであることがわかる。やっていることは同じだけど保証の付き方が違うということだ。さらによく見ると、事前にメールで通知されたPDF版ではNurse N04xxxとなっている。なるほど日本の求める証明では医師の署名が必要だから、PDF版だけではまだ要件を満たさない。以前のSYNLABの結果のPDF版ではよく見るとpersonal use onlyと書かれていて看護婦の名称も掲載されていない。検査方式が適合していても帰国用には使えないのは妥当だ。ただ、実際の検査の内容は同等といえる。大使館の助言は制度に沿った極めて理にかなったものと言えるがちょっと釈然としない。
機密性の観点では、SYNLABの検査結果のPDF版のアクセスはSmat-ID/eIDによるログインが必要なので、かなりセキュアなのに対し、CONFIDOはメールについているリンクがあれば誰でも見られるようになっている。eIDの無い旅行者が対象だから適切な措置だと思うが、パスコードを紙で渡すことはできるので、もう少しセキュアにすることはできると思った。それより不思議なのは、手書きで書き写して医師がサインしているという点だ。むしろ誤記の余地があって、信頼性が下がる。プリントアウトを同梱しないわけにはいかないので3枚組になっているのだろう。
疑問が湧くのは、なぜこういうドキュメントが日本ではデジタルにならないのだろうという点だ。コピーを紙でというのはしょうがない気もするが、真正性を確認するには結局検査機関に照会するしか無い。SYBLABの場合は、QRコードがサイトを指していて、検査結果にアクセスできる。CONFIDOはサイトを指してはいなかったがコードは印字されている。偽造をチェックするすべは十分確保されているから、紙に署名する必要があるとは思えない。
一つ感じる文化の差は、欧米のマインドセットは後チェックで日本の文化は前チェックという違いだと思う。ドキュメントが揃っていると申告すれば簡単な確認で済ませるが、間違いがあれば厳罰というのは欧米ではよくあるパターンだ。例えば電車の切符は無くても乗れるが、無賃乗車の罰金は重い。
今回の日本の場合であれば、全てが様式を含めて揃っていることを確認しなければゲートを通過させないという考え方といえる。実態としては、紙で揃えて空港でチェックするより、事前にデジタルで提出させて審査しておくほうがずっと合理的だろう。紙だと、人が見てその場でチェックしなければならないから、人手も時間もかかるし見落としも出る。さらに、ゲートを固くするとゲートを通過させた後がノーガードになることが多い。むしろ、デジタルでずっとトレース可能にするほうが合理的だろう。そうするとプライバシーをより堅固に保護しなければいけなくなり、人権を守りつつ安全性を保とうとするとGDPRのような管理体系が合理的になる。
SYNLABのケースで考えると、申込みはサイトで行って、検査場所で本人確認はするが記録は取らない。検体用のシリアル印字されたシールをもって検査場に行く。検査の担当者は名前は確認するが、シリアルが間違いないかだけが問題で検体をとってそれでおしまい。受付の人も私の検査結果がどうだったかは知り得ないし、検査の人も私が誰かが分かっているわけではない。しかし、プロセスが回っていれば私は正しく結果を知ることができるし、行政等が必要であれば令状を使えば誰がどのような関わったのかトレースすることができる。それぞれの人は自分が担当していることしかわからない。知らないことは漏らせないから安心して仕事ができる。一方、CONFIDOの場合は、手書きで書き写しのプロセスがあるから、基本的にすべての内容を確認しなければいけない。担当者は、全てを知ってしまうのである。
紙モデルは文書に全部を詰め込もうとする。それを持ち出せば一発ですべてが漏れる。極めて脆弱なシステムである。デジタル時代は、機微な情報に触れずに仕事が回るプロセス設計が肝要である。だから、恐らく中央権力者が全部を見ることができるような国家モデルには持続性がない。発想の転換が必要なのだ。
デジタル・ガバメントの遅れは、時間が経過すれば経過するほど深刻な差異を生むだろう。
※画像はCONFIDOのビル。この5階で証書を受け取る。左の下に小さなSYNLABの施設があり、ここで検体を取る。調べるとSYNLABは検査会社としてはすごく強いようで、CONFIDOのリリースを見るとSYNLABに委託することで良いサービスができると書かれている。