OECDは2014年にe-governmentとDigital governmentを別のものと定義していた

hagi2020/09/29(火) - 00:16 に投稿

e-governmentもDigital governmentも日本語にしてしまうと、どちらも電子政府としたくなる。しかし、OECDの文書を解釈すると、e-governmentは政府の(手続きの)電子化で、Digital governmentはデジタル化による政府の再構成を意味しているようである。

元はと言えば、エストニア関連の記事をたどって「電子政府のつぎ?デジタルガバメントってなに?:電子政府案内 その5」という記事に行き着いたところからこの文章は始まっている。引用記事の筆者は、2019年5月時点でエストニアのタリン工科大学のM2だとある。エストニア政府のシステムとブロックチェーン技術利用に関するよくある誤解をわかりやすく説明したりしていて、私はすっかりその書きっぷりが気に入ってしまった。委細が謎だった、エストニアの高齢者貧困率の高さを紐解いてみたり、工科大学のM2なのにカバレージ範囲が広い。さらっとウクライナ人の彼女のコメントが出てきたりするのでリア充でもあるのだろう。

本題に戻ると、彼の記事では「デジタルガバメント(digital government)は電子化はスタートラインとして(digital by default)、実質的な“公的価値”に焦点を当てようとするものです」と書いていて、そのあとに公的価値=Public valueの定義に言及している。OECDの定義に触れる前にPublic valueの一般的な定義として、wikipediaのPublic valueを引用すると、”Public value describes the value that an organization contributes to society.”とある。組織が社会に貢献する価値のことだとしている。民間企業の株主価値の行政機関版である。そのOECD定義の第一は、「市民や行政の利用者の欲求に応えるものやサービス」であって、視点が支配指向ではなく、顧客志向である。これ、少し突っ込んで考えるとすごいことなのだ。

日本の憲法だと、権利という言葉は28回、義務という言葉は13回出てきて、権利のほうが倍以上多いのだけれど権利の方は抽象的で義務の方は具体的だ。政府が人権を保証するために出生届などの手続きが義務として課せられる仕組みになっている。e-governmentは、デジタル技術でこの義務の負荷を軽減しようというものだと考えればよく、他方Digital governmentは技術の進化に伴って、権利の確立を具体化する変革だと捉えればよいのだろう。

あえて単純な例を上げれば、日本のマイナンバーはe-governmentの極みである。行政手続きのための個人番号でうまく進めれば国民の義務に対する負荷は軽減され、行政の効率も上がる。結果として、国民の福祉が増大するからめでたしめでたしという考えだ。一方、エストニアのeIDは個人の権利を保証する方向から設計されているので、民間や個人間契約を含む広範な電子署名プラットホームサービスを提供し、実質的に無償で当事者以外が見ることのできない暗号化プラットホームを提供している。個人に関わる情報は本人のものであり、行政は行政サービスを行うためにそれを預かっているという建て付けになっている。加えて、Once onlyポリシーで行政側は、市民から同じ情報を2度聞きしてはいけないルールになっている。日本のように行政の都合で考えると住所など都度聞かれるので、嫌になるほど書かされる。それをe-government化しても仮にどこかからコピーしてくることができたとしてもとても個人情報を守り切ることなど出来はしない。エストニアの場合は、住所情報は一つの行政機関がそこだけで責任をもって預かっていて、本当に必要なケースに限って他の機関(民間含む)が照会することになる。照会する場合も例えば文京区在住であることが確認したいのであれば、住所情報そのものを受取る必要はない。isLivinng(萩原高行, 文京区)というAPIがYesまたはNoを返してくれれば良いだけだ。実際には、現在だけでなく2009/12/31といったパラメーターを設定するようなケースもあるだろう。こうやって考えると徐々に頭が整理されてくるが、e-governmentで手続き電子化率90%とかいうのは目標としては不適切なのだ。デジタル技術を利用して、根底から行政サービスおよび行政サービスのための情報基盤を再構築しなければ実現はできない。

私達が理解すべきことは、e-governmentの向こうにDIgital governmentがあるのではないというかなり不都合な真実だ。

日本に限らず、他のOECDの国々でも、きちんと理解できている政府要人はわずかだろう。エストニアは本当にすごいと思うが、既に巨大な行政システムを有している国は影響が猛烈に大きい。しかし、この山を超えなければ競争力も失われ、国民の体験でも負けていく。

個人番号を政府による管理番号から、市民のデジタルアイデンティティにすること。10年程度の期限を設けて、Once Only違反率の上限を定めること。国際互換性のあるPKIへマイナンバーカードを移行させること。その3点はぜひとも実現してもらいたいと願う。

考えを整理するのに神長広樹氏の記事はとても役に立った。心から感謝する。

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