Rt.liveによれば、ニューヨーク州のRtが再び1になった。最新の陽性検査数は791、想定陽性者数は223、想定感染者数は189。NYのRt=1が続くとするとずっと200人位の陽性者が毎日出続けることになる。平均治療期間を30日とすると、6,000床の態勢。New York State Department of Health COVID-19 Trackerによれば、陽性検査数は636。ちなみに、ニューヨーク市に絞ると270、東京の最新陽性者数は226。
半年前、2月29日に上野動物園は感染症拡大防止のため臨時休園となった。新型コロナが具体的な影響を与え始めたのがこの頃と考えている。
2月29日の東京の陽性判明者は1名、20代の女性だった。その頃、イタリアでは急速に感染者が拡大していたが100人を超えたあたり、ニューヨークでは遠い世界の話だった。しかし、その後急即に感染拡大し、Rt.liveによれば、3月13日に205人。3月末には9298人ととんでもない状況になる。日本は2月4日のダイヤモンド・プリンセス検疫、特に2月19日の岩田健太郎氏の衝撃的な告発ビデオで一気に関心が高まった。それでも3月末には東京の陽性判明者は78人になった。この頃、私も含め少なくない人がニューヨークから1ヶ月遅れくらいで推移しているのではないかと考えていた。4月末には数千人のオーダーになるのではないかと思っていた。幸い、東京のグラフを振り返ると4月10日前後を山として、5月中旬には数件まで減少した。東京は約1ヶ月でかなり落ち着いた。一方、ニューヨーク州は3月7日(陽性者数43)に3月20日(陽性者数2950)からのロックダウンを宣言した。今振り返れば日本も東京も判断が早かったし、行動変容も迅速だったと考えて良いと思う。
ニューヨークは、5月15日の活動一部再開までの間永らくRt=0.7程度を達成することができ、推定感染者数が551となっている。一部再開で当然Rtは上がったが幸い1を超えずに5月28日にロックダウンを解除した。このタイミングでのRtは0.86、推定感染者数は286。解除されたとは言え、3ヶ月経過した今もレストランでの屋内飲食は許可されていない。そして日毎の想定感染者数は200人程度になり、Rt=1の「定常状態」に入ったように見える。新型コロナが絶滅不能な疾病だとするとどこかで概ねRt=1となるから、今の行動様式で、ざっくり6,000床の医療コストを負担することが定常状態になるということだろう。もし、もう一度ロックダウンを4週間行ってRt=0.7、感染間隔を1週間と考えると1ヶ月後には日次感染者数は50名程度に下がることになり、1,500床位で済むことになる。ロックダウン1ヶ月のコストと定常的な医療費負荷をどう考えるかという見方もできるし、現在の定常状態が持続可能と考えれば、医療技術(ワクチン含む)の向上で、Rtが下がり行動制限の緩和または医療コストの削減が可能になるのを待つという選択肢が生まれてくる。
繰り返しにしなるが、新型コロナが絶滅不能な疾病だとするとRt=1の定常状態を目指すことになる。その時の日次感染者数とインフラ改変を含む行動様式の目標を定めるのが重要になる。
仮に新型コロナを交通事故並みの脅威であれば許容しようという目標を立てるとしよう。2019年の交通事故件数は38万件強、日次事故件数は1,044件、死者数は8.8。新型コロナの致命率を2%で逆算すると、日次感染者数は440人となる。8月27日時点で新規陽性者数が867だから、半減を目標にしないといけない。現在のRtが1を切っているとすると、400程度を下回るまで現在の行動様式を継続して、それから何らかの緩和を行って、400人以下でRt=1を探ることになる。
私は、東京も日本政府も間違いを犯し続けていると思っている。活動再開が早すぎた論があるが、本質はRtを何としても1以下に抑えるというメッセージが出せていないところにあると思う。5月25日の解除が早すぎたかどうかの判断は、その時点でRt=1の行動様式に移ったとして、医療コスト等が許容可能な状態か否の判断でよい。その妥当性は前段で述べた脅威レベルの設定ができていればよいのだと思う。今振り返れば、東京アラートは悪くなかったと思う。日次陽性者数を20、接触経緯不明5割未満、週単位増加率1の設定だった。週単位増加率1は厳しすぎたのは失敗だったと思う。2週間の時差があるので2週間で1.5程度で良かったのではないかと思う。6月12日に改定された値は、それぞれ50、5割、2だった。6月末に数値目標は破棄された。何と言ってもポイントはRtだ。週単位増加率はRtと相関があるのは明らかで、これが1を超えているということは行動様式がRt<1を満たしていないということにほかならない。これを放置したらアウトである。
そういう意味では、政府のGo toキャンペーンは最悪の判断といえる。もちろん、開始時期の問題もあるが、Rtが停止基準に盛り込まれていないところがいけない。東京アラート同様、全国レベルで許容陽性者数と週単位増加率を設定するべきだったし、今後の施策も同様のガードをかけるべきだと思う。経済が回らなければ政治家は窮地に追い込まれるが、科学的考察を無視すれば人が死ぬ。どの程度の接触機会の増加までがRt<1を満たせるのかを織り込めていない施策はアウトだと考えるべきだろう。
ちなみに、IMFの新型コロナウイルスの影響に対処する医療支出政策に関する指針によれば、感染者一人あたりのコストは概ね300万円程度とある。定常状態で日次感染者が100人違うと1日の医療コストは3億増減する計算になる。年間千億円程度ということになる。医療リソースが潤沢にある前提で考えると意外と小さい。GDPをざっくり500兆円で、楽観的に見ても50兆円程度は縮む現実と対比させると誤差の内だ。逆に言えば、日本や東京だけで解決できることではないが、行動様式の変更のコストは莫大ということになる。このくらいギャップが大きいと社会構造の転換を図らないと対応できないだろう。そういう意味でも元の社会に戻そうという方向のGo toキャンペーンは間違っていると考えたほうが良い。
定常状態は持続可能じゃないといけないので、必ず淘汰は起きる。生き残るものと消えていくものが生まれる。ましてや、社会構造の転換が少しでも起きれば、その影響範囲は広大となる。ひょっとすると、ワクチンで全てが解決するかも知れないが、解決できなかった場合は激烈な変化が起きるだろう。
まだ変化は始まったばかりだが、今の所中国がうまくやれているように見える。専制が鼻につくが、科学的なアプローチでは群を抜いているように見える。IT応用による総監視と中央の強力なコントロールがGDP減少を妨げているように見える。私は、自由は手放さないという原則を守りながら、総監視社会を機能させることができるかどうかに未来の経済的繁栄と人権満足度の向上がかかっていると思う。科学と政治の関係を見直すべき時期が来ているのだと思う。
リスクモニタリングがしっかりできるようになれば、動物園も閉鎖する必要はなくなるだろうし、公共交通機関を使った移動も、屋内飲食も普通にできる社会を取り戻すことはできる。ただ、今までとは形は変わる。リスクモニタリングの実現には急いでも時間はかかるし、その前には1.8m基準や継続接触時間の短縮は避けがたい。そして、リスクモニタリングがうまくできるようになった後でも恐らく1.8m基準のオフィスやレストランは今より快適な日常を提供することになり、バリアフリーと同じように慣れてしまえば元に戻る気にはなれないはずだ。
今の社会構造を維持しようという施策より、廃業と創業に有利な制度と、6 feetオフィスのような新たな競争基準を設定するような規制を行うのが輝かしい未来への近道(急がば回れ道)ではないかと思う。マイナンバー再考を始めとしたデジタル社会の本格的な整備をするのも時間がかかる。しかし、今までの失敗をごまかしたりせずに着実に進めなければ未来は拓けない。
幸か不幸か、科学的アプローチや透明性に逆行し力に頼る政策を進める総理は去る。このチャンスを活かせることに期待したい。簡単には世の中は変わらないが、あきらめなければきっとより良い社会を構築することはできる。