テレワークとプロセスマネジメント、リスクマネジメント

現在やっている仕事の一つにテレワークに関するコンサルティングがある。その実施にあたって最大の武器は、約30年間のITプロフェッショナルサービスの会社での経験だ。

ITプロフェッショナルサービスは、プロジェクト形式で業務を遂行する。最初にゴールを決めて、お客様と合意し、それを実現するために必要な作業や人、技術を特定して組み上げていく。チーム単位でサブゴールを決めて、誰か遅れてしまった人がいれば、誰かがカバーして何とか結果を出していくのが日常だった。プロセスマネジメントの巧拙が大きな意味を持つ。

もちろん、システム運用のような定常的な作業と突発的に発生するトラブル対応の組み合わせのようなケースもあるけれど、腕の良いマネージャーは、様々な問題発生を可能な範囲で想定して事前に対処方法を考えている。優秀なエンジニアがいれば、1人で10人分の成果を出せるケースはあるけれど、大局観をもって全体を見られる人がいるかいないかで問題発生時の対処は大きく変わる世界だった。プロセスマネジメントだけでなくリスクマネジメントの巧拙が大きな意味を持つ。

テレワークはマネジメント力が試される場である。顔を突き合わせながらの仕事と違って、共同作業の時間を最小化しなければ上手く行かない。30分毎に上長に指示を仰ぐような仕事の仕方ではテレワークは回らない。そういう職場では、今のままテレワークをやろうとすれば上手くいくわけがないのである。

組織としては、チームがゴールを達成できさえすれば、とりあえずそれでよい。そう思えれば実は、時間管理に意味はない。もちろん、窓口業務は開店時間中に依頼を受けられる状態になっている必要があるけれど、当番を決めるなどすれば、時間制約のあるタスクは最小化できる。そういうプロセスマネジメントが機能することでテレワークは実施可能になる。さらに、テレワークが実施できるレベルまでプロセスマネジメントが成熟すれば、業務効率はたいてい上がる。

今までの常識が通用しないのはストレスなのだが、本気になれば労使とも満足度は上げられる。

一方で、プロセスマネジメントへの注力は、最小の人数あるいはコストで最大の成果を出す方向に動かざるを得ないから、格差を助長するとともに、余裕が削られてしまうので突発的な事故への耐性が失われかねない。詰め込みすぎると、ちょっとしたことでも、全部が止まりかねないのである。プロセスマネジメントとリスクマネジメントは車の両輪のようなものだ。片方の能力が高いだけでは、上手く行かない。

プロセスマネジメントが高度化した時、リスクマネジメントが機能しないと脆弱になる。テレワークは単なる手段だが、テレワークへの対応は、企業にとって本質的な改善活動である。

企業も国も、一定の時間をかけてでも、労働時間と賃金のアンバンドリングを進めていく方向に制度、法律を変えていかないとマネジメント能力向上のインセンティブが働かなくなると思う。頑張ったものが損をするバカバカしい社会習慣の温存にほかならないからだ。

蛇足になるが、セキュリティ管理はリスクマネジメントの一部である。今までオフィスの中は安全として、ほとんど全ての文書をセキュリティ管理対象文書にしているような企業は、リスクマネジメントをやっていないのと同じで、テレワークに耐えられない。リスクを評価して、本当に管理対象にしなければいけない情報を極小化し、レベル付けして、公開部分を増やせば増やすほど業務遂行の効率は上がる。事故は起きるのだ。漏洩は起きる前提でリスクマネジメントを行えば、プロセスマネジメントをより高度化できるヒントが見つかる。過渡期はともかく、リスクマネジメントをサボってVPNやVDIに頼っているようでは、マネジメント視点では敗北を認めているのと変わらない。