デジタルサービスをエストニアでやったらどうなるかを考えてみた

hagi2019/10/24(木) - 16:08 に投稿

エストニアのe-residencyは非居住者の起業を可能とする。日本から見ると、EUに住むことなくEUの会社が持てると考えてしまいがちだ。しかし、e-residentが一番多いのはFinlandで5千人強、4位がドイツで4千人弱だ。EUの国の国民、EU市民がなぜe-residentになるのか不思議に思っていた。Webで探してみると、ドイツで会社を立てるより、エストニアのe-residentになってエストニアで会社を立てた方が速いからだと書いている人がいた。私が日本で合同会社を立てた時は自前で、極わずかなお金で割と簡単にできたと思ったけれど、それでも法務省や税務署、都税事務所や年金機構など結構いろいろなところを回らないと設立できなかったのだ。一方、エストニアでは全部オンラインで、しかも手続きは1日でできてしまう。スピード感が違う。その上、エストニアの税制は単純で、配当をしない限り法人税はかからない。単純だから設立後の間接経費も安くなる。納税を行う場合も役所に行く必要はない。

仮にエストニア以外の母国にデジタルサービスの会社があったとする。その会社は従業員を雇ってサービスを開発し、維持管理を行っている。そのサービス提供会社をエストニアに立てて、独占サービス提供権を与えて分離したとすると、人ややっていることは全く変わらないのに、エストニア籍のデジタルサービスにあっという間に化ける。エストニア側の会社は配当しない限り税金はかからない。業務委託費を元の会社に支払うことはできるから、現在かかっている原価をそのまま2社間取引にすれば、元の会社はやっている事も給料も変わらない。すごく小さなコストで製販分離ができるという事だ。コストが小さいので、例えば1社で3つのサービスを有していたとしたら、3つエストニアの会社を立てて、4社体制に作り替えても良い。これは結構すごい事だ。日本やアメリカでグループ会社を作るのとは訳が違う。行政インフラの高度化で間接コストが激減すると流動性・柔軟性が激しく高まる。

非居住者起業を許可するという規制緩和は、実は電子政府だからできる行政サービスと言える。もちろん、エストニア国民がその国家サービスで生産性を上げることができるわけだが、それをe-residentに間貸しすると、エストニア国民以外の人が行うビジネスがエストニアにやって来るという事になる。配当しない限り法人税収は得られないとしても、利益を上げる会社が増えれば、国富(資産価値)は上がる。

すごく荒っぽく言えば、ドイツで得られるはずだった利益がエストニアに移る合法的な仕組みを作ったとも言える。これはTAXヘイブンと似ているが違う。税金の安さで企業を誘致しているのではなく、企業を支えるインフラが効率的であるために本当にコストが削減できるから可能になるサービスと言えるからだ。

改めてエストニアは20世紀の従来型の国家とは似て非なるものだと思う。Legal Spaceを電子文書&電子署名におく行政サービスは、次々と従来型国家からビジネスを奪っていくだろう。Wikipediaでは「国家(こっか)とは、国境線で区切られた国の領土に成立する政治組織で、その地域に居住する人々に対して統治機構を備えるものである」とある。エストニアは国家であるが領土や血縁によらない統治機構を提示しているという意味で、従来の国家の枠組みにおさまらない新しい実態では無いかと思う。

もちろん、実際の人間は住処が必要で物理的な安全が確保されなければ生きていけない。エストニアはe-residentに対して居住権を認めていないし、それ故物理的な安全に責任は持たない。しかし、行政サービスの一部を使う事を許容し、成功した場合は納税する義務を課すようになっている。e-residencyはデジタル移民プログラムと考えるとしっくりくる。かつて新天地としてアメリカへの(一時)移民で成功を祈ったように、e-residencyプログラムはデジタル時代のエストニア電子政府空間(Legal space)への移民と見るのが適当なのかもしれない。e-Residencyプログラムは2014年12月に始まったまだ5年に満たない挑戦だが、なめてはいけない。窓が開いている内に権利を獲得しておくことをお奨めする。

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